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ワンピース

 「これは?」


 選んだワンピースを清華に見せる。


 ラーメンを食べ終えた後、私達はまず近くの百貨店に立ち寄った。


 選んだワンピースは水色のシンプルな装飾のもの。あまり派手なのとかフリルがついてるのは清華が苦手意識を抱きそうだからひとまず却下。


 「ほら、良く似合ってるよ」


 清華を鏡の前に立たせて、後ろからワンピースを清華の前に回した。こうすれば後ろから抱きつくような格好になるってわけ。


 清華のうなじが流麗な線を描く。綺麗。しかもなんか良い匂いする。なんだろう、メジャーな香水じゃない。清華の匂いにシャンプーなりが混じり合った女の子の匂い?正直頭がクラクラしそう。


 清華の頬にほんのちょっと朱が差していた。


 「うん」


 首肯する清華。どうやら気に入ってもらえた様子。


 ワンピースを自分で持って複数の角度から実見。


 「試着してみたら?」


 戸惑う清華の背を押してグイグイ試着室へ連れて行く。


 「あの、買うかわかんないんだけど……」


 「気にしない気にしない」


 体形と、あと自分のファッションに合うかの試着なんだから一々気にしなくていいと強引に試着室へ送り込んだ。


 次いで店内から清華に合いそうな上衣やスカート、アウターやらを探し出して試着室へ持っていった。


 清華がどの試着室を使っているかは一目でわかった。だってやたら雰囲気のあるブーツがあるんだもん。あ、ひょっとして清華が試着を躊躇ってたのつてブーツだからってこともあった?


 しかし改めて見てもかなり良質な牛革を使ったブーツだ。しかも細かく観察するとかなり使い込まれているのが見てとれる。なんと言うか、大人な男性が革財布を愛用しているようなイメージ。丁寧な手入れでわかり辛いけど微細な擦れ傷も認められる。……何者?


 シャ、と試着室のカーテンが開けられて清華が顔をのぞかせた。


 まるでお伽話の妖精が現れたみたいだった。長くさらりと流れる白髪に、細い体の線を強調するノースリーブのワンピース。


 このワンピース似合ってる?と不安そうな表情とあぶなげに胸の前に浮く手がこの世界に現れたはがり、みたいな雰囲気を醸し出していた。エルフみたい。


 周りの客やスタッフも私と同様、思わず息を呑んだ。


 「良く似合ってるよ」


 私は辛うじて頷いた。


 「なんか落ち着かないんだけど……」


 そらそらと落ち着きなく動くからスカートがひらひら揺れる。


 「スカート慣れてないの?」


 「うん。動きづらいから」


 動きづらい?スカートが?むしろ動きやすいと思うけど。ズボンとかと比べたら動きを遮られづらいと思うんだけど。


 今一つ得心いかない私を見て清華は補足する。


 「ほら、めくれちゃうじゃん」


 捲れる?そりゃ風が強い日とかは捲れそうになるから履かないのもわかる。けどそれ購入時に考えることじゃなくない?


 ……清華は購入時にそれを考慮する必要がある?そんな高頻度でスカート捲れたりはしないけども。


 ふとブーツに視線を落とした。ひょっとして清華ってアウトドア派?そりゃ外で運動するならスカートは不適。喫茶店でのイメージから完全にインドアかと思ってたんだけど。


 「あのさ、清華ってアウトドア好き?」


 もしそうならアウトドアな感じの服を見繕うが。ショートパンツとかああいう活動的な印象を与えるやつ。


 清華は首肯も否定もしなかった。そういうの考えたことないや、だって。


 「趣味は?」


 「読書」


 バリバリインドアじゃん。そう言えば喫茶店でも夕焼けの前は本読んでる。


 「外で遊んだりする?キャンプとか?」


 そうでもない限りブーツとか必要ないよね?


 「あ、うん。たまにお父さんとキャンプ行くよ」

 

 あ、やっぱりそれなりの必要性があって買ったんだ。まあそれでもキャンプにブーツ必要無い気がするけど。


 「あのさ、大胆すぎやしないかな」


 清華が聞く。どうやら特にノースリーブを気にしてる様子。清純っすな。


 「いやそんなことないけど」


 「そ、そっか」


 それ以外は気に入ってるらしい。まんざらでもない様子。しきりに鏡に向き直っては色んな角度から見てる。


 「買っちゃえば?」


 私は背中を押す。ましでそのワンピース着てる清華とデートしたい。


 清華は値札を見た。んで驚いて瞠目してちょっと表情を固まらせた。んあー、女子高生にはちょっと高い、かな?いやわからん。日本のJKの金銭事情とか知らないし、親裕福だし、私自身モデルとしてそれなりの額を給料としてもらってる。


 けどそんな高額でもないと思う。


 清華は幾分か逡巡していたようだったけど、こくんと一度大きく首を縦に振った。決心がついた様子。それもどうやら買う方向に。


 会計にやたら緊張する清華に付き添う必要があった。一体何をそんなに恐れるというのか。買い物したことなんていくらでもあるだろうに。それも服だよ服。


 「あのさ、普段どういうとこで服買ってるの?」


 素朴な疑問だった。だってシンプルなワンピース買うのにこんなぎこちない動作するっておかしいでしょ。


 「えっと、普通にそこら辺のお店とか、アウトドア用品点とか」


 ……別にここも普通のお店なんだけどなぁ、とは言うべきか。まあ人によって普通は変わるものか。私も2年前まで、つまり高校入学前まではロシアにいた。だから文化の差、つまり日本での普通には驚きと困惑の連続だったわけだし。


 会計を済ませた清華が私に尋ねる。少しだけ首を傾げて、チラッと上目遣いなのがとんでもなく可愛いくて心臓に悪かった。


 「あのさ、イヤリングとか、ああいうおしゃれな小さいやつも見てみたい、んだけど……」


 「もちろん!んじゃあ行こうか!」

 

 私達は小物達を求めてアクセサリー類を販売してる店へ向かった。


 ……それにしても小物って単語知らないんだね。喫茶店での私に接客した時の感じ、わんちゃんガチで小物=雑魚で認識してそうなんだよなぁ……。

 

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