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ラーメン!

 私はしげしげと清華の服装を眺めた。なんか、滅茶苦茶シンプルじゃね?上から明るい砂色の帽子(なんか天頂部に銀色の線入り)、薄い青色の七分袖、帽子と同じ砂色のズボンにブーツ。


 どうやら清華は服装に無頓着らしい。……私程度にはこれくらい雑で十分、的な意図がないことを真摯に願う。


 私は白を基調としたワンピースにアクセントで茶革の細いウェストベルト。それからほんの僅かに甘い香水。


 ところで初夏にブーツですか……。湿気大丈夫?蒸れない?暑くない?


 「食べ歩きでしょ?」


 歩き回るでしょ?と清華。あーなるほど。非常に言い辛いことにそれ、多分に言い訳を含んでるんだよね……。いや、色々食べて回ろうってのは嘘じゃない。


 にしてもやけに本格的なブーツじゃないか。ちょっとしゃがんで見てみた。ズボンは何やらフックのついた細い紐状のゴムでブーツに固定されている。何これ……。


 しかもこのブーツ、ファッション用のやつじゃないぞ。牛革製で相当頑丈に作られてる。それこそ軍隊とかが使うようなやつ。


 それでいて良く手入れされてる。しなやかで、光沢こそないが、むしろ軍隊用のブーツなら無い方が自然だろう。


 あと紐もやたら頑丈に結んであるし、端も網紐にたくし込んでプラプラしないようにしてある。


 ……何者だこいつ?


 「ラーメン食べに行くんでしょ?」

 

 早く行きたいんだけど、清華に急かされた。


 「んあ、そうだね」


 まあブーツにばかり意識を取られるのももったいないかと意識を切り替えた。


 「それで?行きつけのがあるんだって?」


 事前に清華からお気に入りのラーメン屋があるって聞いてた。助かるよ。私ラーメン全然詳しくないし。

 

 「うん、近くだよ」


 道すがら、やっぱりどうにも気になったので服装、というか清華がどういうファッション感覚の持ち主なのか聞いてみる。これでお前なんか適当で良いよって感じで服選んでたら泣ける。


 「シンプルなのが好きなの?」


 「まあ、結果的には」


 結果的に?詳しく。続きを促す。


 「元々ファッションに興味無いし、使い易さ優先で選んでたら結果的にこんな感じ」


 「ふーん」


 とりあえず私は雑に扱われてるわけじゃないことを知って密かに安堵した。


 しかし実用第一とかあまりにJKの価値観から離れてない?JK(常考)。ていうかじゃあなんでブーツなんだよ。スニーカーとかでも頑丈なやつあるだろ。それに革製品手入れ面倒でしょ?


 まあでも?たしかに清華にフリルとかは似合わない。……そうかな?案外似合いそう。ていうか多分清華ってなんでも似合う気がする。たまにいるのだ。何着ても映える人間。


 「おしゃれなのは?さすがに1着くらい持ってるでしょ?」

 

 例えタンスの奥深くにあるにしても。


 清華はしばし考えてこれかな?って今着てる服の裾をつまんだ。


 ……おいおいマジかこいつ。ドン引きだよ。確かにシンプルイズザベストって言うけど、ただの単色の服がおしゃれかはだいぶ議論の余地がある。ていうかそれをおしゃれだと考える時点で本当にファッションに関心が無いのがわかる。


 「スカート持ってる?」


 「もちろん。セーラー服はスカートだもん」


 当たり前だろうと頷く清華に私は絶句。まさか私服のスカート持ってない女の子がいるなんて。私達花も恥じらう乙女だよ?


 唖然とする私の顔を見て清華がうめいた。


 「だっておしゃれな服とかわかんないし」


 拗ねるような口調の清華は年齢不相応で可愛らしかった。


 「んじゃあさ、この後行こうよ!」


 幸い近くには百貨店もファッションストリートもある。スイーツの食べ歩き兼ファッション探訪。中々宜しいのでは?


 清華も異議無しとのことで、ラーメンの後はそっちに歩を伸ばすことになった。


 「ここ」


 清華が指差したラーメン屋。ラーメンはまるでわからないからおすすめされたラーメンを注文。


 で、現れたラーメン。砂色のスープにチャーシューは種類か部位が違うのが3つ。卵にネギにメンマにノリ。かすかな小麦の匂いが鼻腔をくすぐる。


 食欲をそそられて一口ふくめばもう堪らない。麺は太くコシがあり、小麦の美味しさを持ちスープに良く絡む。スープは豚をベースに魚介も使われていると見た。


 唯一躊躇ったのが1つのチャーシュー。チャーシューというより脂の塊と表現する方が遥かに適切な代物。もでるの立場から言えば絶対に避けた方が良い食べ物。


 それでも逡巡はほんの一瞬。食欲に突き動かされて口に放り込んだ。そう、食べると言うより放り込むと表現するのが正しい。それだけこのラーメンは美味しかった。


 量は並みたいだったけど麺が太く、チャーシューも3枚あったから食べ終えれば満腹満腹。満足のため息を吐いた横で清華が信じられないことを言った。


 「足りない」


 そう言うと、さっさと寄越せとばかりにチャーシュー丼を新たに注文した。いやあの、あなたラーメン並より多い中盛頼んでましたよね?


 そんな私の疑問も驚きも清華は気付かない。どころか丼を待つ間にスープを飲み干した。丼を持ち上げる中々豪快な飲みっぷり、まるでバイキングみたいだった。


 チャーシュー丼は名前の通り、ご飯にチャーシュー2枚がのせられたもの。ご飯は一般的な大きさの器に入っていて、つまりラーメンと合わせて食べるのは無理なんじゃと私は思う。けど清華はペロリと平らげてしまった。


 「いやぁ、美味しかったねぇ」


 ニッと笑う清華。


 それは喫茶店で見せるような、たおやかで淑女然としたものではなくて、少年のような勝ち気な笑顔だった。


 意外さに驚いたけど、少し嬉しくもあった。一体誰が清華のその笑顔を見たことがあるだろう。


 私は清華と打ち解けてきている。内面を学校の誰よりも私と清華の距離は近い。そう信じてやまない。

いわゆるファッション、おしゃれが盛んな通りがあったとして、なんと呼称するのが良い、あるいは適切なのでしょうか。そこがわからなかったから本文ではファッションストリート、とあるわけです。


ところでですね、ハンガリーは首都ブダペスト、ドナウ川の近くに同名の通りがありまして、まあ観光客やらで賑わっているんです。で、その一角?にSZAMOS(サモシュ)というカフェがあるんですね。そこが私のお気に入りでこの作品で出てきたクリームケーキはサモシュのものがモデルなんですよ。

サクサクの生地に挟まれた優しくほのかに甘いクリームが堪らなく美味しい一品なんです。


皆様も機会がありましたらぜひ。

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