2人
すっかり時間も経って気の長い太陽もだんだんと水平線に近付いていく。
いやまさか2周するとは思わなかった。水族館、最後の地点と最初の地点が同じになってて、追加料金無しで見ることができた。
でもまさか2周目行くとは……。展示は結構なボリュームだったから、正直1周目の最後の方から流し見になってた。いやまあ清華を見てた時間の方が遥かに多いんだけど。
2周目もじっくり展示を見て楽しんでた清華の集中力には驚かされる。別に全部を見てたわけじゃないよ、興味のあるとこだけだよ、と清華は言ったけど、いやそれでも途方もない集中力だ。
「ね、あれ乗ろ!」
清華がビシッと指差すのは観覧車。数年前まで日本一の高さを誇っていたとか。水族館の最寄駅の数駅前からでも望見できたから迷わず下車できた。
なんでもチケットは水族館の入館チケットを見せれば10%オフになるしい。
「2枚だよ、2枚!」
「え、2枚?」
「そう!2周するの!」
「えぇ……?」
またぁ?乗ってるだけとはいえ、この観覧車1周15分だよ?
清華は私の疑問に気付くことはなく、というかやりたい事のために敢えて無視しているようにも感じられた。それで大人しくチケット2枚を買い求めた。
観覧車はゆっくりゆっくりと回る。そして案外グラグラと揺れる。怖い。
そんな私を見て清華は手を口元に当てつつ、クスクスと笑いを隠さない。世間一般でいう優しいお姉さんみたいな表情。
少しすれば落ち着いて周囲を見る余裕も生まれた。
足元には果てしなく、水平線の果てまで続く東京湾に東京スカイツリーが見える。遠くには東京の高層建築物群、反対側を向けば幕張のビル群。遠く富士山を窺うこともできる。
壮観とは正にこのことだろう。さて、高さ1メートルから見た水平線までの距離は4.14キロメートル。この観覧車の最高点は117メートルらしいから、最大でおおよそ484キロメートル先まで見えることになる。
夕陽に照らし出される街並みはため息が出るほど美しい。
1周目が終わると、唐突に清華が私の横に移動してきた。
戸惑う私に構いはしない。手と手を重ねて私にしなだれかかった。
「こうしたかったの」
夕陽に照らされる中で、こうしてお互いを感じられるように、密に寄り添っていたいの、と。
不覚にも胸が高鳴る。止まるところを知らず、バクンバクンと心拍数は上がりっぱなし。
痛いくらいだ。
夕陽に包まれる清華はその西陽を、そしてチラリと私を愛おしそうに見る。湛えた微笑み。
「Ты романтик(ロマンチストだね).」
私が悪いとはいえ、再度告白の場を設けたり、今みたいにわざわざ夕陽のために観覧車を2周したり、清華って案外ロマンチスト。
「Да, как и ты, милая(ええ、貴女と同じようにね、恋人さん).」
清華が……ロシア語を……?まったく完全に意表を衝かれて私が目を丸くしていると、清華はイタズラに成功した子供のように笑いを堪え切れない、とばかりにクスクスと笑う。
「ロシア語の勉強始めたんだ」
どう?少しは喋れるでしょ?と自慢気な清華。いやまったく。
милаяってまだ出会って間もない頃、無意識に口を出た言葉。愛しい人って意味だけど、清華は記憶を遡って私が言ったことの意味を理解しただろうか?それとも何か言っていた、ぐらいで覚えてはいないのだろうか?時期を考えれば後者だろう。仮に前者であればあまりに恥ずかしいから嫌だ。
ね、恋人さん、とイヤリングをちょんちょんと指差すように軽く触れた。
「あぁー……」
完全にバレたか。なるほどそれで私もロマンチストだ、と返したのね。
「顔赤いよ」
なんぞ嗜虐心に触れたのか清華はニヤニヤしてる。
「夕陽だよ」
「そう」
私の拙い言い訳なんかとっくに見破ってるくせに意地悪く笑む清華。
ひとしきり楽しんだ後、清華はおもむろに顔を近付けた。私の頰が赤いのも夕陽のせいだよ、と下手くそな言い訳して私を真正面から捉える。照れながら優しく柔らかい微笑みを浮かべている。
背後では太陽は半分くらい水平線に没していて残照が眩しい。
「貴女が好きよ、幸」
そう言って私の頰にキスをした。
完!結!いやあなんとか年内に間に合いましたね。
というわけで1年とちょっと、ありがとうございました。まさかこんなに長くなるとは自分でも思ってなかったです。最後までお読みいただいた皆様には感謝しかありません。
今後一週間をメドに、タイトルを変更します。現題だとあまりに内容との乖離がデカいので……。たぶん『私が恋した殺人鬼〜セーラー服の(以下略)』になると思います。それから誤字修正も随時行なっていきます。
それでは皆様、良いお年を。ご機嫌よう。




