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私の恋した殺人鬼(セーラー服の、ツンツンJK)  作者: ヨシトミ セイリン


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変わったもの、変わらないもの

 8月も終わりに近付きつつある。連日の酷暑は湿気も相まって真剣に命の危機を感じさせる。


 けれど今日の私はそんなことが気にならないほど緊張していた。なぜって今日は清華とのデートだから。行き先は水族館。


 2人で出かけることなら以前にもあった。なんなら今日も以前と大して変わらないだろう。なのに緊張するのは、以前とは関係が違うから。つまり恋人として一緒に出かけるから。


 約束の時間まであと大体20分。少し早く来すぎた。


 しかしながら感無量である。振り返ってみれば清華と話すようになってから2ヶ月ほど。色々あった。色々、なんて一語じゃとても足りないけど、けどその膨大さゆえに結局は色々の一語に収斂してしまう。


 妹ちゃんに話したら信じられんて顔をしてた。妹ちゃんとしては、私を清華の実家に誘ったのも多少の改善を期待してのことで、過去にケリをつけられたのすら予想以上だったという。


 それから私が初めて清華に「貴女が好き」と伝えた時のことを話したらバカだろって切り捨てられた。いやまあ私もそう思う。あの時は清華が親友を殺そうとした騒動の後。勢いがあったとはいえ信じられないタイミングには違いない。


 「まさか君が極左冒険主義者だったとは……。てっきり極右日和見主義者かと思ってたんだけど」


 とは妹ちゃんの一括しての感想である。まあ、なんとなくニュアンスは伝わる。


 そう、タイミングがタイミングだったから、清華の要望で実はあの後もう一回場を設けてしっかり告白した。これはこれで信じがたい話ではある。


 あの夕陽の中の喫茶店で、暮れなずむ日に包まれながら私はもう一度「貴女が好き」と思慕の情を伝えた。それで2回目のokを貰った。


 さて、その清華が姿を見せた。集合時刻までまだ10分以上ある。なんだかんだ清華も早く来たらしい。


 「こんにちは」


 私は改札から出てきた清華の容姿に心奪われた。新しいワンピース着てる……。


 無地で簡単な構造をしている新緑色のワンピース。それがかえって清華の身体美を引き立てている。足元は涼しげなハイヒールのサンダル。耳には宝石を模ったイヤリング。以前一緒に買ったやつだ。


 髪はいくらか短くしたらしい。後ろ髪をお団子にして全体的に持ち上げている。首周りがスッキリしていて長髪だけど涼しそうだ。


 「……あ、うん。……こんにちは」


 惚けてしまって生返事みたいな声しか出なかった。


 どうかしたかと訝しむ清華になんでもないんだと首を振り降り。


 「そのワンピースってさ」


 以前一緒に買ったやつじゃない。


 「うん。せっかくだから新調したんだ。どう?似合ってる?」


 ちょっと不安気に裾をつまんで、ひらりとターンする清華。ふわりと揺れる長丈のスカートもあって妖精みたいな可憐さ。


 「良く似合ってるよ」


 「そっか、良かった」


 「それじゃあ行こっか……」


 清華、って言葉が続かなかった。単純に恥ずかしかったのだ。


 言葉1つ、呼び方1つにしても関係が変われば込められた意味も変わる。何が言いたいかと言えば、私は恋人として清華を意識した時、直接に下の名前を口にするのがどうにも小っ恥ずかしく思えたのだ。今まで散々清華って呼んできたのにね。


 おかげで伸ばした手も中途半端。


 その手を見て訝しむ清華。でもすぐに得心したように頷いた。恋人だもんね、と手を繋ごうとする清華。


 けど私の手に触れる直前、ピタリとその動きを止めた。


 一体どうしたと清華を見れば何やら真剣に迷っている様子。ムムッと眉にシワを寄せている。あ、さては手の繋ぎ方で迷ってるなコイツ。


 逡巡の果てに顔を真っ赤にしながらぽふっとそっと丁寧に手を繋いだ。指を絡める、いわゆる恋人繋ぎじゃなくて友人と手を繋ぐやつで。

そっと顔を逸らす清華。そうも純真な反応をされるとこっちも困る。


 そうやって私達はようやく歩き出した。


 2人とも歩き方はぎこちない。私も、そしてたぶん清華もこうして歩いたことが無いから。


 初めて。何もかもが初めて。


 やたらに暑い。手を介して清華の鼓動まで伝わってきそうだ。私の鼓動は清華に伝わってるに違いない。それだけ鼓動してる。暑いはずだ。

 

 「あ、見てマグロ!」


 「え?」

 

 センチメンタルな気分をぶち壊すように清華は言うと、ほらこっちこっちと私の手をグイグイ引っ張る。先には2メートルのマグロの実物大模型。背比べできるようになってる。


 「ね、写真撮ってよ」


 言うが早いか私にスマホを渡すとマグロの横に立った。後ろに手を組んで少し胸を逸らして、つっと立つ。少し勝ち気そうな無邪気な顔なのに不思議と大人の芳香が醸し出されている。


 恋人としては惚れ直した。モデルとしては嫉妬した。


 そんな私の複雑な心境を露も知らないと見えて、テンションの上がった清華はどんどん私を水族館入り口へと引っ張る。正直すごい楽しい。


 清華のこういう溌剌とした行動って仲良くなった、より詳細に言えばそうとう清華の内側にいないと見れないと思う。清華の実家で、清華が妹ちゃんに一緒に寝ようと追い縋っていたのを思い出せば、なおそう言える。


 水族館の入り口には海中を背景に写真を撮ってくれるサービスがあって、もちろん清華は利用した。ほら、スタッフさんに一緒に写真を撮ってもらおう、って。


 ポーズどうしようって悩む私を傍目に、清華は迷わず横たわる大きなマグロに抱きついていた。それから私をチロリと見ると、なんだそのポーズは、と不満タラタラだった。私を真似て抱き付くんだ!と怒涛の如く迫られると否応無い。


 清華のはしゃぎようはまだ続く。ようやく収まったのは小走りで入り口を潜った後だった。


 水族館内へはエスカレーターで降りていく。おそらく日光対策のためだろう。


 何だか静かさへ分け入るような、新世界へ行くかのような感じがして心が高鳴る。潜水艦が潜航する時もこんな感じなのかなって素人ながらに考えちゃう。清華も嫋やかにに目を細めているけどワクワクしているのが手に取るようにわかる。


 波の下にも都はございます。


 閑話休題。エスカレーターの先、真っ先に目に入ったのは一面の大水槽。サンゴ礁の海という名前らしい。文字通りサンゴや、サンゴを利用して暮らしている魚を見ることができる。


 「わぁ……」


 2人揃って感嘆の息を漏らした。泳ぎ回る色とりどりの魚は絢爛で流麗。正に壮観。私は今まで魚とは縁遠い生活を送ってきただけに、こうして色彩豊かな水中の光景に圧倒されるのは新鮮だ。


 清華も食い入るように見ている。単純な知識欲から目を輝かせているその横顔はなんだか少年っぽく見える。


 コースを歩いていくとマグロの展示もあった。全面180度が水槽になっていて、その中を無数のマグロが泳ぎ回っている。


 「ねね、秘密があるんだって」


 清華が指差した先には看板。ざっくり要約すると『マグロには秘密があるよ!見つけてね!』的なことが書いてある。


 はあ、秘密……。随分と子供っぽいというか、まあ実際子供を対象にしてるんだろう。そして子供っぽいところの多分にある清華は興味津々でマグロ観察に興じ始めた。


 「うーん……。なんだろう……?」


 右手をアゴに当ててかなり真剣な様子。ところで清華の癖なのか、右手とセットで左手を胸のあたりに持っていくらしい。その左手は私の右手を握ってるから、私の右腕の肘から先が清華に密着する。

 

 清華は一切気付いてないようだけど、私は気になって気になって仕方がない。


 「わかった、ヒレだ」


 旋回する時にヒレが出てくるんだよ!と秘密を発見してはしゃぐ清華。まるで宝物を発見したみたいに喜色満面の笑みを浮かべている。


 小さい水槽があった。クラゲのだ。自然、私達は寄り添うようにして見る。清華が近い。さらりと流れる流麗な髪、細められた目、かすかな吐息。


 思わず引き込まれてしまうその美しさ。私が見惚れていることに気付いた清華は不意に一歩寄った。急なことで驚いた私がバランスを崩すとグイと繋いだ手を引っ張り寄せる。


 零距離のお互いの顔。息をすることすら躊躇われた。清華はさっきまでの幼さはどこへやら、妖艶な笑顔でもって私をからかう。


 私は振り回されてばかりいる。もっともそれは私が水族館の展示じゃなくて清華ばかり見てるからそうもなるんだろう。


 しかし思い返してみれば、わずかに汗ばむ初夏に喫茶店で出会った時からずっと振り回されていた。そこだけ切り出してみれば、私と清華の関係というのはあまり変わってない。無論実際には他の多くの面で劇的な変化があった。


 キュイキュイとペンギンが鳴いている。まだ赤ちゃんペンギンに向けられる清華の慈愛敬愛に満ち満ちたその柔らかい視線。


 その目線が一点で止まった。2羽仲睦まじく寄り添うペンギン。説明によれば夫婦らしい。生涯をずっと寄り添って過ごすそうだ。


 清華の私の手を握る力がキュッと強くなった。ペンギンに色々を重ね合わせるその真摯な眼差し。私も同じことを考えてる。


 ずっと一緒に寄り添っていけたらいいな、って。

次回最終回!

物語的には今回の話で良い感じなんだけどもうちょっと書きたいシーンがあるので。

さて年内に間に合うのでしょうか……。

間に合ったら評価していって下さい。

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