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清華の実家

 新幹線に電車、バスを乗り継ぎ乗り継ぎ約半日。清華の実家の所在する咲乱村さくらむらは正にステレオタイプのままの田舎だった。四方遠くに山々を望む。人口は二千人ほどらしい。


 空気が澄んでいて美味しい。ずっとスーハースーハーしてられる。ここに来て初めて都会の空気って濁ってるんだって思い知った。


 にしたって電車の数一日四本とかマジ?しかもこれでも増えたってちょっと何言ってるかわからない。それで生活を維持できるの?待ち時間本当に苦痛だったんだけど?


 おかげで咲乱村駅に着いたのは、まだまだ明るいながらも太陽がやや傾き始めた頃。


 駅には妹ちゃんが迎えに来てくれていた。清華と妹ちゃんは2日前にはもう来てた。さすがに2人の帰省中私がずっといるわけにもいかないから。


 村行く人々が私に注目する。「外国人が珍しいんだよ」と妹ちゃん。私は別に気にしない。こういう奇異の視線は大体どこでも浴びてるし、モデルである以上見られるのには慣れてる。


 コンクリート舗装されていない道をスーツケースをガラガラ引っ張りながら歩く。妹ちゃんによれば大抵の道はコンクリート舗装されておらず、村で一番高い建築物は三階建ての村役場なんだとか。


 建物は大半が木製で一部の建物には藁葺きの屋根とかある。私は今日本の原初の心に触れてる気がする。


 清華の実家は村の中心から離れた、少し高くなっているところにあった。離れていると言っても権力者の距離の取り方である。自分とお前達とは違うのだ、と示している。


 門構えも、また邸宅も立派なものだった。なんでも姫舞家はこの土地の名士なのだという。


 宿を取る必要は無いと言われたけどなるほど、これだけの邸宅なら客間の1つや2つは当然のようにあるんだろう。


 ていうかこの村宿とかあるんだ。いや失礼なのは承知だけどこの村に宿必要?観光客来るの?ここ観光資源ある?


 「自然。都会と違って何も無いのがいいんだって。私も自然豊かなこの村は好きだよ。夜は星が綺麗だし」

 

 「はぁ……。なるほどねぇ」


 確かに自然は観光資源になり得るか。今さっき私も空気美味しいって思ってたわけだし。星が綺麗っていうのも都会じゃ体験できない。それにこの村の風景は日本人のノスタルジーを大いに刺激するだろう。


 「こ↑こ↓」


 妹ちゃんが変なイントネーションで門を指差す。いや、わざわざ言われなくても目の前だしわかってるけども……。


 別段何かを伝えたかったのではないらしく、ただ1人で満足してさっさと入って行く。


 「悔い改めて」


 「はぁ……」


 相変わらずよくわかんないネタとテンションに私は言えることはない。


 清華の実家の日本邸宅は築年数が古いらしい。けれども古臭いと感じることはなく、むしろ歴史と伝統を感じる。


 こういう伝統的な日本邸宅に入ったことってないからノスタルジーを刺激されるし冒険心が刺激されてワクワクしてくる。


 フローリングはキッチンと書斎しかないらしい。


 通された客間は、本当に客間かと思うほどに広い。私のマンションのリビングくらいある。調度品も良い感じ。


 荷物を解いて部屋を出る。キッチンの方から賑やかで楽しげな声が聞こえてきた。清華の声も聞こえる。

 

 釣られて私は歩を進めた。そっと覗いてみると清華が祖母と一緒に夕飯を作ってる。清華は蕾のほころぶような、花の咲き誇るような笑顔をしている。


 こんな品を作ろうだとかこんな味付けにしようとか。


 夕陽が山陰に隠れる頃。提供された夕飯は非常に豪勢だった。お刺身に山菜に天ぷらに。おおよそメジャーどころな古風な日本料理である。


 「遠路遥々御苦労様でした。お疲れになったでしょう」


 祖母が丁寧に労を労ってくれる。


 「いえそんな。景色も楽しめましたし」


 「でしたら良かったわ。それじゃ早速いただきましょう」



×××××



 お風呂は檜風呂だった。正直食べ過ぎて重い腹を引きずりながら入浴する。カポーンと心地よい音がした。


 気持ち悪いとは承知の上で、清華が入浴した後の湯を楽しませてもらった。おかげですっかりのぼせてしまった。


 どうせなら清華と一緒に寝れないかなと考えていると清華の声が聞こえてきた。賑やかというより幼稚な騒々しい声。


 「なんでよー!一緒に寝よーよー!」


 「やだよ!なんでよ!あーもう鬱陶しいなぁ!引っ付かないでよ!」


 「やだやだやだやだなんでなんでなんでー!おばあちゃーん冴月がいじわるするー!」


 そっと声のする方を角から覗いてみると、清華が妹ちゃんの足首に必死になってしがみついていた。妹ちゃんは清華を引きずりながら歩き、それも中々難しいと分かると手を突っ張りぐいぐいと清華を押し除けようとしてる。


 なんかすごい光景。清華ってあんな幼稚なことするんだ。


 清華は妹ちゃんの部屋まで粘ったものの、最後にはペイと投げ飛ばされた。ピシャリと閉められた扉を何とかしようとしたものの、効果は無かった。


 しょんぼりと肩を落としてトボトボゆらゆらと幽鬼歩く清華。


 見つかると厄介なことになりそうだからと咄嗟に隠れた。けど木の床がたわんでギッと音を立てる。


 清華は虚ろな目で私を一瞥すると何もなかったかのように通り過ぎて行った。と、廊下の奥まで行ってから物凄い勢いでこっちを振り向いた。なんか日向ぼっこしてて弛緩し切った野生の猫が「お前、人間、そこにいたんか」って驚く様子に結構似てる。アゴの下わしゃわしゃーってしたい。


 清華は私をガン見したまま動かない。いや、動かないというかどうしたらいいのかわからなくて動けないのか。


 さっきのドタバタを見てたというのは中々具合が悪いような気がする。


 「どうかした?」


 何も見てないよ。言外にそう言う。


 清華はそう、とコクンと頷くと去って行った。上半身をゆらゆら不規則に揺らしながら歩くその様はまるでゾンビだった。……そんなに一緒に寝たかったんだ。


 ……こう、私が妹ちゃんの代わりに清華と一緒に寝たいんだけど。でもさすがにそれを言い出せるだけの関係じゃないと思う。以前であれば言えた。けど私が無理して迫ったから。


 なんとか清華の実家にいる間に修復できればいいんだけど。

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