誕生日
清華が我が家にやってくる。なぜなら今日は私の誕生日だから。
10時頃に来てお昼ご飯を作ってくれる。プレゼントいらないから清華のご飯食べたい!ってゴリ押ししたら良いよって首肯してくれた。お昼を食べたら映画見てゆっくりして、夜はちょっと良いレストランへ。
うーん完璧な一日。これで一緒にお風呂入って寝れたら言うことは無しだったんだけど……。まあ贅沢は言わない。
しかしまさかここまで短期間に清華との交友関係が進展するとは思わなんだ。孤高と称するのが適してると思うんだけど、清華って学校だとずっと一人でいる印象。学校外のことはさすがに知らないけどいつも無表情だったし交友関係広くないのかなーって思ってた。
今が二年生の六月下旬。私達が高校に入学してから一年と二ヶ月。普通ならいつもたむろしたり遊んだりする仲良しグループをとっくに形成してる。
もっとも清華の場合、一年生の五月に女子剣道部との間に暴力沙汰を起こしたからそれが原因で友達を作れていない、というのも大いにあると思う。……そう考えると私ヤバい奴を好きになった?
いやでも私は事が起きた経緯について清華に非は無いと思ってる。理由は二つあって、一つ目はあの時周りの人間が清華が因縁付けられて引っ張り出されたって言ってたこと。二つ目は清華に罰が(少なくとも生徒が知り得る範囲では)下されていないこと。暴力沙汰の結果、体育館の床には血が飛び散り女子剣道部の部長は右腕が複数箇所で骨折しさらに骨が皮膚を突き破った。そこまでいきながら清華には表面上なんの罰もない。私が推理するに事の発端に清華に非が無いから罰する理由がなかったんだと思う。過剰防衛と思わないでもないが剣道部は10人がかりで模造刀や木刀を持っていたのに対し清華は丸腰だった。
部長始め半数以上が退学したのはまた別の話になるのだろうか。
しかし改めて清華の戦闘力が化け物。実は私あの時動画撮ってて見返すことができる。あまりの惨状に見返す気は起きないけれど。
でも清華が孤立しているのは私にとっては好都合。だって私が清華を独り占めできるんだもん。そりゃあ子供じみた感情だってのはわかってるけど好きな人は自分だけのものにしたいじゃん?
将来的にはずっとそうなってほしい。少なくても、今日だけはそうだ。私がワガママを押し通したんだけど、それでも良く受諾してくれたなって感心する。案外一歩踏み込めばそこから先の関係を発展させるのは容易いのかもしれない。例えてみれば溝は深いけど幅は狭いみたいな。
10時丁度に清華はやって来た。リュックを背負って左肩にバックを下げている。なんか随分大荷物だ。
清華はキッチンに立つとリュックから適宜食材を取り出しつつ手際良く料理を進めていく。
献立は私が事前に希望を伝えている。魚をメインにした和食だ。
はてさてどんな料理が出来上がるのかなと私は胸を弾ませながら見ていた。
まず清華が手をつけたのはお米。あらかじめ私が洗米したものに焼いた鮭の切り身、醤油、味醂、出汁にしめじを入れて炊飯開始。
メインディッシュは揚げ物。唐揚げ、イワシのつみれ団子、エビ、カボチャ、ナス、しめじに山菜各種。中々に豪勢だ。
唐揚げとつみれ団子は清華があらかじめ下拵えしたものを持ってきていた。
私は清華がテキパキと料理を進めていくのを微笑ましく眺めていた。なんか丁寧な暮らしの理想の家庭って感じ。
私、両親が料理してるのってあんまり見たことない。小学生の内から親元を離れてロシアにいたからっていうのと、両親共に仕事に忙しかったから。
あんまり見つめてたからか清華が気付いて何?と首を傾げた。その気持ち悪い薄ら笑いはなんだ、って感じかな?
「ううん。なんかお母さんみたいだなって」
優しい家庭ってこんな感じなのかな。
けど清華の反応は変だった。オンボロのロボットが急制動をかけられたみたいに一瞬ギシッと、あるいはピクリと止まった。転瞬、清華が纏っていた空気も変貌した。動揺、恐怖、恐怖が転じた敵愾心、悲嘆。清華の目が泳いだ。
すぐに地雷を、それもとんでもない地雷を踏んだって理解した。清華が何かを言う前に私が言葉を被せるように言った。
「あ、何かさ、音楽かけるよ!何がいい!?」
それで清華から離れて目を合わせないように背中を向けるためにレコードを操作する。
「あ、えっと、特に希望は」
清華はいつもの澱みない受け答えとは違ってどこかぎこちない。
私は慣れたはずの蓄音機をおぼつかない手つきで操作して落ち着いた曲調のクラシックを流した。これで心を落ち着けてくれないかって。
そっと清華の方を伺うと、もう何事もなかったかもようにまた料理に邁進していた。揚げ物のジュージュー揚がる音が聞こえ、また食欲を大いに刺激する匂いが鼻腔をくすぐる。
目が合った。清華は気にするなと首を振った。
前前前話あたりからヒロインの清華の内面書き出してます。果たして何が清華を形作っているのか?恋の行方は?お楽しみに