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続、仕事

 同日、私はもう一つの仕事を抱えていた。と言っても今度は商品の写真撮影じゃない。高校生ミスコンの応援大使として立候補者のプロモーションビデオと集合写真の撮影がある。


 むしろ私が出場したかった。私だって高校生だし優勝っていう肩書きがほしい。


 出場者の一覧を見てみる。クラスでは、あるいは学年の中でなら可愛いやつ、可愛いをぶりっ子と勘違いした残念なやつ、化粧が厚いだけのやつ。こいつは面の皮も厚そうだ。


 もっとも、こういうのは自己顕示欲の強いやつしか集まらない。どんな女子高生だって清華の前じゃ霞んで見える。まあ清華って可愛いよりかは美しいって感じだけど。


 逆に清華を大衆の目に晒すのはよろしくない。清華は私が独占する。するっていうかしたい。


 むしろ私が出場したかった。この参加者の中なら私が絶対に一番容姿に優れてる。私だって優勝してチヤホヤしてもらいたい。


 けど残念なことに出場条件はモデルなど芸能活動を行なっていない高校生。日本一可愛い女子高生を決める!とかのたまってるくせに。


 一応私の所属事務所は私に箔を付けるためにコンテストか何か探してるらしい。けど今度有名ブランドの宣材写真撮ることにもなったし必要ないのでは?って意見もあるのだとか。肩書きがなくても実績が十分あるだろうって。


 最初に集合写真の撮影があった。『今をときめく人気JKモデル、サプフィールさんが応援に来てくれたした!』なんてキャプションが付くらしい。


 本当に勘弁してもらいたい。私が応援する、ということは各立候補者の容姿を私が認めたことになってしまう。果たしてこんな奴らのどこにその価値があるというのか。


 そりゃあ私が外れ値だって自覚はある。けどこんな、特段容姿が優れているわけでもない連中を応援するのは嫌だ。


 本当はこの仕事も受けたくはなかった。報酬も雀の涙だし。でも事務所が『モデル界隈、ひいては服飾業でもそれなりに注目度の高いイベントだから。これに関わることで露出を上げ知名度を上げることができるから』って。


 今なら今度高級服飾ブランドのモデルをするから必要ないでしょう、って断れるんだけど、その時はまだ決まってなかったから。


 ならせめて字句を変更できないのかと尋ねたが、返事は貴殿の懸念については十分理解した、だった。


 ご理解『だけ』をどうもありがとう。って感想。企画趣旨の都合上応援しなければならないのは私としても理解は及ぶところ。納得はしてないし嫌だけど。


 私が太鼓判を押すのは清華だけ。……なんか最近思考、特に評価基準が清華に蚕食されてる。


 それはともかく、写真撮影が終わると街路に出てプロモーションビデオの撮影が始まった。名前の割に実情はショボい。


 集合写真を撮影した事務所前の街路。一般人も通るちょっと広いだけのそこで立候補者一人一人に一問一答の簡易なインタビューしていく。例えば告白したい?されたい?とか。こういうのを結構ポップな感じでいくつか撮影する。時日をズラしてSNSに投稿することで世間の関心を長く引き付けるのだとか。


 このインタビューがだいぶ気に入らない。何が気に入らないって結構バカっぽく振る舞わなきゃいけない。具体的には、先ほどの告白云々を例にとると、「告白したい?されたい?私ならされたいかなぁ〜?あ、でも気になる人には自分からガツガツ行っちゃうかもです!」って著しくIQを下げた回答をして、それから各立候補者に聞いていく。しかも立候補者の回答にコメントまでしなければならない。


 ちょっと、いやだいぶ待ってほしい。私そんなキャラじゃない。プライベートでも仕事でもそんな幼稚な言動はとってない。仕事では知的で怜悧な、いわゆるクールビューティーしてる。


 しかし仕事と言われればやらざるを得ない。幸いなことに多少の言動の余地は残っている。せめて被害を局限できるように話そう……。


 実際に始まると大変な苦行だった。言動の余地は残っていると言ったものの、精々トーンを変えるぐらいで、著しくIQを下げた言葉を使わなければならない。「え、可愛い〜」とか。


 もう段々精神がすり減って若干の皮肉ともとれる内容に次第に変えていった。あとロシア語を混ぜたり。


 道行く人が物珍しさにこちらを見る。そりゃそうだ。私だって疑問に思うよ。何してるんだろうって。


 んでその中に大変見知った帽子を見つけた。明るい砂色に天頂部に銀色の線が入っているものである。


 なんかやたらゴツいサングラスをかけていて顔の全てが見えるわけではないけれど、形の整った鼻と口、何より白髪の長髪は清華に違いなかった。


 清華のツヤと発色の良い桃色の唇が何をしてるんだお前は、とばかりに軽く歪んだ。私だって理解、というか自分を納得させるのに苦しんでるよ。


 違うんですこれは仕事であって私はこんなバカじゃないんですと言い訳したかったけど清華は歩みを止めることなく結構な速度で歩き去る。なんかやたら歩くのが早い気がする。


 清華が角の向こうに曲がる直前、撮影が休憩になって私は大急ぎで清華を追いかけた。


 100メートルくらいある直線をダッシュで走り抜けて角を曲がって先、人通りはあまり無いのに清華の姿は発見できない。間違い無くこの方向へ曲がるのを見たのに。


 そう言えば以前こんなことがあった。学校ので清華を追って階段へ行った時だ。あの時清華は後ろから現れた。つまり清華がいるのは後ろ!


 ばっと振り向いた先には誰もいなかった。清華は路地にでも入ったのかもしれない。あんな バカなのは本当の私じゃないよって言いたかったのになぁ……。

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