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道すがら

 もういい?と清華は元の服装に着替えようとしていた。


 「あ、いや、ちょっと待って」


 慌てて私は制止する。もう見納めなんて早過ぎる。今日はずっとそれ着ててくらないかな。


 「でもさ、これブーツには似合わないよ」


 これで出掛けるの?と清華は不思議そうにしていた。


 確かにあのブーツとそのワンピースは似合わない。今の清華に似合うのはオシャレなサンダルとかハイヒールとか。


  私は清華の横に立ってお互いの足の大きさを比べてみた。うん、身長分微妙に私の方が大きいけどほとんど同じかな。


 「私の靴貸すよ」


 サンダルタイプで多少調整できるのがある。


 「あ、ていうかさ、出前でもとる?」


 そもそもどこかに出掛けなくても良い。出前を取ってソファに腰掛けて映画でも見ながら、なんてのも素敵だ。


 何食べる?お寿司?ピザ?それともイタリアンとかフレンチ?いっそ料理人呼んじゃおっか!


 が清華の反応は芳しくない。具体的に言うとイタリアンのあたりから引いていた。別の世界を覗いてるみたいな雰囲気。


 「いや……、そんなお金無い……」

 

 おほん、と咳払いして調子に乗りすぎたのを流す。


 「ま、料理人云々はともかく。出前っていうのは?」

 

 そもそも何か食べたいものとかある?って尋ねる。


 「いや……。元々一緒に夕飯たべるとは思ってなかったから」


 だから何も案無いよ、と。


 まあそうか。でも!私は家に連れ込むことを画策してたから安心あります!それなりの価格の出前調査済みです!あと近辺の高校生のお小遣いでも行けるレストランとか。


 「じゃあさ、イタリアン行こう。オシャレなとこ知ってるんだ」

 

 値段を心配する清華に、そんな高くないよと安心させる。いわゆるファミレス?だと思う。ピザと小綺麗に盛り付けられたサラダの美味しいお店。


 清華に私のサンダルを履かせると2人して歩く。ちょっとハイヒール気味だけど大丈夫かなって清華を窺う。


 マンションの廊下を歩く清華は、最初こそ少しふらつくような足取りだったけど、すぐに感覚を掴んだようでスタスタと歩き始めた。


 「いいの?ピザとか食べて」

 

 モデルは色々食事に制限とかあるんじゃないの?清華はそんなことを心配してた。


 「大丈夫だよ。普段から節制してるから。それに週一でジムとプール行ってるし」


 確かにモデルという職業柄、なんでもかんでも好きなものは食べられない。食べられないということはないけど栄養管理士から監視を受けていて、食生活に関しては割ととやかく言われる。舐めんな。女子高生は元より食と体型に関してはシビアだっつーの。


 それに毎日筋トレしてる。


 「大変じゃないの?」


 私には無理かなー、て清華は呟く。じゃーお前のその恵体は何だよって感じ。何の努力もせずにその体なら私は神を呪う。


 「別に。元々体型維持には気を遣ってたし。こう見えてさ、バレリーナ志望だったんだよ」


 だから体型維持も、そのための食生活も運動も苦じゃない。何しろ小学生から続けてたことだから。


 「ねえ、清華は?将来の夢とかある?」


 「…………。考えたことないな」


 ふと背けた顔。自動車のライトが眩しくて仔細は窺い知れなかった。けれどその横顔に滲んでいたのは哀切、陰鬱、諦観。視線の先にあるのは未来ではなく過去である気がした。


 どうにも考えたことがない、ではなく考えられない、というのが適切であるような気がした。そしてその理由は余人をして立ち入っていけない事情かもしれない。


 駅前に来た。急に周囲の環境音が騒がしいほど大きくなって、やかましい光が清華の輪郭を照らす。


 私には返ってそれが、私と彼女は違うのだと厳然とした断絶を示しているように思われた。


 私は初めて清華に儚いって印象を抱いた。今までは確固とした芯を持っているように思っていた。


 それが今の清華は夕陽が水平線の果てに沈む瞬間のように、次瞬きをした瞬間にも消えてしまっているんじゃないか、そんな儚さ、あるいは脆さのようなものがあった。


 私は思わず、彼方へ消えないように、引き留めるために清華の手を取った。がっしり握った手はビックリするぐらい温かかった。ただ基礎体温が高いだけのことなんだろうけど、私には清華が確かにここに存在する証拠に思えて無性に嬉しかった。


 「えっと……」


 急に私が手を取ったから清華は困惑していた。


 反射的に手を掴んだ手前、どう返したら良いものかわからない。それで私はいっそより飛び込んじゃえ!と清華の腕に抱き付いた。さも、女の子同士なんだから当然でしょ?って顔で。


 清華は迷惑そうにしてたけど強いて振り解こうともしなかった。清華自身の人付き合いが無さすぎて判断できないのか、それともロシアではこれが普通だと納得したか。清華の不見識に助けられたかな?


 私は清華の過去も未来も知らない。知りたいし、もし悲しい過去があるなら共有して一緒に乗り越えていきたいと思ってる。


 でも今の私には無理だろうことはなんとなく理解できた。


 だから清華にほんのちょっと先の未来、つまりは今夜の予定について尋ねてみた。


 「ねぇ、一緒にお風呂入るでしょ?」

タイトルは後で変えるかもしれないっす。なんか良い感じのが思い浮かばなかったので……。


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