第4話 引越し
「私たち同棲します。」
私は母さんを呼んで文華の母さんに私たちの結論を話した。
「うん。そうなると思った。」
「良かったわね。文華……」
私の母さんは淡白に、文華の母さんは号泣していた。
「ちょっと待って母さん……淡白すぎない?」
「普通でしょ?2人ならそうなると思ってたし。」
ウチの母さんのあまりにも淡白な反応がおかしいと思うのは私だけだろうか……
「それでも淡白すぎるでしょ!」
「だって、2人とも昔からよく遊んでたし、大学生になったらルームシェアくらいするのかなくらいは頭の中に入ってたわ。」
「母さんがどこまで考えてたかが分からない……」
「そりゃー親だもん。娘の行動や考えてることくらいは分かってないとやってられないわよ。」
無関心かつ何も見てない様に見えててしっかり見てる……それが親だと改めて思わされた。
「それで、いつから一緒に暮らすの?」
「ゴールデンウィーク明けからにする予定。持って行くものは着替えと勉強道具くらいだもんね。」
「えっ?あっ……うん……」
「みたいだから明日からちょこちょこ荷物を持って行こうと思うよ。」
文華の母さんは笑っていた。しかし私の母さんは少し不安そうな顔をしていた。その答えは帰り道に分かった。
「ねぇ理子……大丈夫なの?」
「何が?」
母さんからの疑問に私は分からなかった。
「文華ちゃんの事よ。2人で暮らせるの?」
「無理なら追い出すから。」
「理子……それは本気で言ってるの?」
母さんの圧に少しびびった……だから素直に言い直した。
「本気ではないけど……でも、これはあの子との勝負だから……」
「勝負?何の勝負よ。」
「文華が私の事を好きに出来るかどうかよ。」
「何よそれ……文華ちゃんの勝ちじゃない?」
私は転びそうになった。流石に動揺した。
「な、なんでそうなるのよ!おかしいでしょ?」
「おかしくないわよ。はっきり言ってあげるわ……10-0て理子が負ける。断言してあげるわよ。」
「ふ、ふーん……期限は1年しかないのよ。それで落ちるわけないでしょ?」
「落ちるわよ……間違いなくね……まぁでも……」
母さんは足を止めて私に言った。
「今のままじゃ……文華ちゃんに愛想尽かされるわよ。」
風が吹いたからか、少し寒く感じた。ゴールデンウィークだから結構暑いはずだ。だけど背筋が凍る感覚が走った。
「そ、そんなわけ……」
「あり得るわよ。絶対嫌われないなんてないんだから……恋愛は好きになった方が負け……でも恋なんて一瞬で冷めるものって事も忘れない事ね。」
何故こんなにも突き刺さるのか……今の私には分からなかった。しかし……
「ど、どうしたらいいのよ!」
「ちゃんと文華ちゃんの事も考えなさい……自分が自分がの時もあって良いけど、意見を聞かないといけない時もあるの。そこを忘れたら友達すらいなくなるわよ。」
「つまり……今の友達と同じ感じでいろって事?」
「母さんは理子がどんな友達付き合いしてるか知らないけど……そういうのに文華ちゃんが惚れたのならそうしてればいいわよ。」
「……分かった。」
「そう。ならさっさと帰るわよ。残りの冷やご飯でチャーハン作るから手伝いなさい。」
「うん……」
そして思い返す昨日から今日までの文華への接し方を……初手ビンタ、有無を言わずに美容院へそして朝から部屋に行き掃除開始、更にビンタ……嫌われる要素しかなかった事に……
「私……すでに文華に嫌われてるかも……」
少し血の気が引いた。何故血の気が引く必要があるのかわからない……私は文華が嫌いなはずでは?などと自問自答してる場合ではない今から引き返して聞きに戻るか、しかし……今から戻って聞くのは流石に迷惑なはず……お昼を食べてからまた行く予定だからその時聞く事にしよう。
「あ、昼からは家の手伝いしなさいよ。」
「えっ?」
「何呆けてるのよ。折角帰ってきてるのよ。家の事もやって貰わないとね。」
「う、うす……」
目が座っていた……これを断ったらたぶん2、3年は帰られなくなる。なので電話をした。
「……という事だから午後からは行けないから……」
「いや、午後も来るつもりだったの?」
「来て欲しくなかったの?」
「いや……来てもいなかったよ。今からお母さんとお買い物行くし……」
「えっ?そんなこと言ってたっけ?」
「ううん……来週から理子のアパートにお引越しするからその前に買い出しに行く事になった。」
「そっか……あのさ……文華は私と暮らすのは……その……怖くないの?」
「えっ?なんで?」
「いや、私短気だし、手もすぐ出るじゃん。だからさ……怖くないのかな?って……」
「えっ?怖くないよ?なんで……理子が手を上げる時は大体他人のためじゃない……だから怖くないよ?」
「そう……それなら良かった……じゃあ!私を好きにさせてよね。またね!」
「うん……またね……」
私は受話器を置いた。まだ携帯の番号すら教えてなかったから今度教えないとな……でも、それ以上に……
なになになになに!あの子!あの子なんでそんなに私の事信用してるの⁉︎おかしいでしょ?3年間会ってないのに何でそこまで信用してるのよ!一瞬で陥落するところだったわよ!
「理子!何玄関で騒いでるの!さっさとこっち来て掃除手伝いなさい!」
「わ、分かったわよ!」
私は台所で呼ぶ母さんの所に向かった。そして暑い中シンクの水垢取りをさせられるのだった。
次の日……
「今日持って行くのはそれだけ?」
「うん……今日はこれだけ……」
私と文華は電車で私のアパートへ向かっていた。数日かけて荷物を持って行く。主に教科書やノート、参考書だった。
「服とかは持って行かなくていいの?」
「うん……大丈夫……また別日に持って行くから。」
「そっか、あとは合鍵作らないとね。」
「えっ?要らないよ。私部屋から出るつもりないから……」
「はぁ?なんで?参考書とか買いに行く時必要でしょ?」
「行く時は理子と行くから良い……」
「子供か!それに散歩も大切よ!だから作るわよ。」
「わかった……」
帰り道は合鍵を作る事にしたが……大家さんに相談してからになる為、明後日となった。そしてゴールデンウィーク最終日……
「じゃあ行ってくるね!」
「うん!行ってらっしゃい!」
「まだがえっでぎでねー!」
父さんはうざいほど泣いていたが良い父親だから蔑ろなには出来ない。そして家を出て、向かう場所は……
「文華も準備出来た?」
「うん……あのさ……理子……」
「何?」
「これ……勉強にも生活にも役に立たないかもだけど持って行っていい?」
鞄から出されたのはお人形だった。私は困った顔をして1つ息を吐いた。
「良いに決まってるでしょ?文華はそれないと眠れないんだからさ。」
文華はパァアと顔を明るくした。
「……覚えててくれたんだ。」
「そりゃーね……」
小学校の時だった。文華が熱を出した時は常に文華はその人形を抱きかかえて寝ていた。あの人形はお守りの様な物なのだ。
「それにしてもボロボロだね。もしかして高校の時も?」
「うん……ずっと一緒だったよ。理子に会えなくて寂しかった時も辛かった時もずっと私に寄り添ってくれた。」
「あてつけかしら?」
「……うん……少しだけね。でも、1番の理由は……この子に見てて欲しいの。私が幸せになる所を。」
「もう勝った気なのね。」
「この勝負だけは……負けたくないから……!」
私は嬉しくて文華の頭を撫で回した。
「そんな顔でそんな事言えるなんてね。嬉しいわねー……私も本気になるわよ!」
「初めてだね……私たちが戦うの……」
「戦うというより競い合いじゃない?」
「どっちでもいいよ……私が勝つから!」
こんなに勝ち気だっただろうか……でも、私はすごく楽しくなっていた。
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