第2話 嫌いなあの子 2
美容院を出た後、私たちは近くのファミレスに立ち寄った。
「何食べる?」
「……ドリンクバーだけで……いたっ……」
私は文華の足を軽く踏んだ。許さないという意味で……
「ドリア……食べます。」
「分かった。じゃあ注文するね。」
という事で店員さんを呼んだ、ドリンクバー2つとドリアとスパゲッティを。
「お腹空かないの?」
「食欲ない……生きてたくない……」
ここが公衆の場でなければ引っ叩いていた。が……そうも言ってられない。訳を聞かなければならないだろう。
「何かあったの?」
「……受験に失敗した私に価値なんてない……」
「来年受ければいいじゃん?そこまで落ち込まなくても……」
「ちがう‼︎」
初めて聞いた……文華の大声……それは賑わってたお店の空気をも一変させた。
「ちょっ!声大きいから!す、すいません!すいません!」
私は周りに謝って席に着いた。
「……ごめんなさい……」
「そう思うなら文華も頭下げなさいよ。で、何が違うの?」
とりあえず落ち着いた所で話を戻した。
「私は今回受験した場所何処だと思う?」
「知らないわよ。文華は文系得意だし、文系の大学でしょ?」
「ううん……違う……××大学……」
「はぁ!?」
私が大声を出す寸前で止めて小声で話しを続ける。
「……私と同じ大学じゃん……なんで?」
「理子と……また学校で会いたかったから……」
そんな理由で……?と口に出しそうになったけどそれは言わない事にした。
「高校で上手くいかなかったの?」
「ううん……楽しかったよ……でも、理子がいないのが……寂かったから……」
「それで……私と同じ大学を受験したんだ……でも、私が受ける大学がよく分かったわね。」
「理子のお母さんと私のお母さんがよく話してたから……それで……」
(あぁ……それでか……)
と思ってると注文した料理が届いたから食べる事にした。
「あ、お会計は私が……」
「いいわよ。今日誘ったのは私なんだから大人しくしときなさい!」
私は文華を静止させて支払った。まぁバイトも始めるしこのくらいは大丈夫だ。何かあれば実家に帰ればいいだけだし。
帰りはタクシーで文華の家まで帰った。時刻は22時半だった。そして夜はやはり寒い……
「遅くまで連れ回してしまったね。」
「ううん……久しぶりに外に出て楽しかった……ありがとう……」
私は家の中に入るのを確認した後家に帰った。
「はぁ……あの子……なんで私と同じ大学なんか受けたのかな?」
私は独り言の様に呟いた。それは夜空に消えていった。
朝起きるといつもと違う天井だった。
「あぁ……実家か……」
実家に帰ってたのを忘れていた私は自分の部屋だった事すら忘れていた。とりあえず起きて顔を洗い朝食を食べてると母さんが来た。
「あら、早めの起床ね。」
「8時過ぎてるけどね。父さんは?」
「会社に行ったわよ。昨日の夜は理子がいなくて泣いてたわよ。」
「あぁ……それは悪い事したな……」
父さんは結構私の事を溺愛してくれてる。もちろんプライベートスペースに入って来たら殴るけど……良い父親だ。
「今日は居るから安心してよ。」
「そうしてもらわないと流石に困るわ。大の大人が泣いてるのを見ながらご飯なんて味もないから。」
酷い言われようだ。でもそんな優しい父さんだから母さんも結婚したのだろう。私はトーストを食べて支度を済ませた。
「あら?お出かけ?」
「うん……文華の所へ……」
「ふーん……」
「何よ?」
ニヤニヤとしている母さんに仏頂面で聞いてみたが、深みのある返事をされた。私はそのまま家を出て文華の家に向かった。文華の家に着くと文華のお母さんが外で洗濯物を干していた。
「あ、理子ちゃん!おはよう。昨日はありがとうね。久しぶりに文華が外に出てくれたからホッとしたわ。」
「いえいえ、私も楽しかったので……それでおばさんに聞きたい事があったんですけどいいですか?」
「あら、何かしら?」
「文華はなんで私と同じ大学に入ろうとしたのですか?」
私の質問に少し曇った顔をした文華の母さんだったが答えてくれた。
「あの子……高校であまり上手くやれてなかったみたいなの……」
「えっ?昨日はちゃんとやってたって……」
「うん、学校には行ってたし、話せる友達も作れてたみたい……でもそれとこれとは少し違ったみたいなのよ。」
「どういう事です?」
「うーん……とりあえず暑いから中に入って貰えるかな?まだ文華は寝てるし、中で話しましょう。」
私は文華の家に入った。そして先に文華の部屋に行くとまだ寝ていた。寝顔は昔のまま可愛いかった。私はそっと扉を閉めて部屋を出た。私が部屋を出てリビングに行くと文華の母さんが麦茶を用意してくれてた。
「あら、文華の事見に行ってたの?」
「えっあっ……はい……」
「ふふふ……やっぱり仲がいいわね。」
「……そうですかね……」
私は自信なさげに聞いてみた。正直私は文華が嫌いだ。でも、放っておけないのだ。
「そう見えるわよ。」
「でも……私は文華の事を……」
「ふふふ……分かってるわよ。苦手なんでしょう?」
「……はい……」
柔らかく言って貰えたがまぁ当たっているから肯定した。
「それでも文華の為に来てくれるんだからあの子は幸せ者よね。」
「正直高校から文華と離れて私は肩の荷が降りた気分でした。でも……心の何処かでは文華の事が気になってました。」
「あらあら、意外ね。じゃあ会いに来なかったのは何故かな?」
「会っちゃったらまた……気になってしまうから……それはお互いの為にならないと思ったから……だから……」
なんだか言い訳じみた事を言ってる私は……かっこ悪かった。
「ふふふ。やっぱり優しいわね。理子ちゃんは……だから文華が依存しちゃったんだなー……」
「依存?ですか?」
「さっき、理子ちゃんが質問してきたわね。なんで理子ちゃんと同じ大学を受験したのか……その答えがそれよ。」
「えっ……まさか……」
「そのまさかよ。文華は理子ちゃんとまた同じ学校に行きたくて受験したのよ。」
私は信じられなかった。文華は頭もいいし賢い、だからこそ文華がそんな理由で受験したのが信じられなかったのだ。
「私も止めたわ。そんな理由で人生を棒に振るのかって……でもあの子は一応文系の大学も受けて合格してたわ。でも文華はそれを蹴ったわ。そして引き篭もってしまった……その時ようやく分かったわ。文華の覚悟と理子ちゃんに対する気持ちも……」
私もその覚悟には驚いた。でも私にそこまでするだけの価値はあるのだろうか?そんなことを考えてると文華の母さんが話を続けた。
「昨日2人が喧嘩してたでしょ?たぶん文華が本気で喧嘩出来るのは理子ちゃんだけよ。」
「えっ?私たち喧嘩だなんて……」
「あれを喧嘩と言わずになんて言うのよ。私たち親子なのにあんな声を荒げて言う文華は初めて見たのよ。あんな風に本音で話せる友達なんて普通はいないのよ。」
そこまで言うと文華の母さんは姿勢を正しくした。
「迷惑なのは百も承知だけど……理子ちゃんにお願いしたいの……文華の事を!」
「わ、私に⁉︎なんでですか⁉︎」
私はたじろぎながらもなんとなく理由は察していた。
「理子ちゃんなら文華も言う事を聞いてくれると思うの。もちろんそれでも言う事聞かなかったからこっちに送り返して貰って構わない!だから……」
「いやいや!無理です!私はただの大学生で自分1人でまだ生きてもいけない様なただの子供ですよ!」
「分かってるわ。もちろん金銭面では私たちも全力でサポートするわ!理子ちゃんのお母さんとも話してる了承を得たから。」
「いや、私は何も話聞いてないですから!とにかく!私には無理ですから!」
「……そうよね……ごめんなさい……もしかしたらと思って頼んだのだけど……ごめんね。変な事言って……でも、文華とはまた仲良くしてあげてくれるかしら?」
私の返事は即答だった。
「もちろんです!」
何故か私は即答出来た。出来てしまった……
「おはよー……えっ?な、なんで理子が家にいるの⁉︎」
「会いに来たのよ。また文華が引きこもりになってるんじゃないかって!あーもう!寝癖で髪がめちゃくちゃじゃない!ほら部屋行くよ!アイロンかけるから!」
「えぇー……先に朝ごはん……」
「今何時だと思ってるの!もう10時半よ!お昼ご飯で食べなさい!全くもう!ズボラなんだから!すいません!アイロンお借りします!」
「好きに使っていいわよ!」
私は文華の手を繋いで文華の部屋に行くのだった。
ここまで読んで頂きありがとうございました!
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