第19話 お泊まり会6
6周目が始まった。今回は桃華からだ。桜と違い目のやり場に困る。
「5のダブル」
初っ端から2枚……そして私と早苗が飛ばされて桜の番だ。
「9のダブル」
「10のダブル」
文華は追加で2枚捨てた。そして全員出せないので文華からだ。
「Kのトリプル」
まぁ出せるはずもなくパスだった。
「2とジョーカー出して3で終わりです。」
文華は流れる様にして大富豪の座を守った。そして文華の隣は私なので私から始める。
「じゃあ私からね。4のダブル」
「低レベルね。仕方ないけど……7のダブル」
「仕方ないよ、大富豪様が強すぎたから8のダブルで切りまーす!」
「ごめんなさい……」
申し訳なさそうに謝る文華だがこれはゲームなので仕方ない。
「謝る必要ないわよー、富豪のひがみなんだから……ほい10のダブル!」
「ほうほう貧民風情が富豪に楯突くと?」
「まぁまぁ、ゲームなんだから……はい、Jのダブル!イレブンバックね。」
早苗のカードで今度は3が最強になった。
「ありがとう……早苗!8のダブルで切らせてもらうわ!そして……8を切って、6で終わりよ!」
なんと桃華も大貧民から富豪になったのだ!そして次は桜となる。
「私の栄華が!」
「栄華はないわね。」
「ないですねー」
トントンとカードを出していく……そして……私が大貧民である。
「さぁ、理子はどうするのかな?」
「脱ぐの脱がないの?」
「やかましい!脱がないわよ!カードもそこまでよくないし!」
「ええー、つまんない!」
「つまらんなー!」
「おっさんか!ほら4のダブル!」
結局深夜4時まで大富豪は続いて全員寝落ちしたのだった。だがそれでも文華は一度も都落ちしなかったのだ。そして朝の9時に起きたら桜と文華がババ抜きをしていた。なので私も混ざることにした。
「ねぇ、理子また泊まりに来ていい?」
「ダメって言ってもくるんでしょ?いいわよ。楽しかったし。」
「やったー!じゃあ来週くるね!」
「来週はバイトだから無理!」
「いいじゃん!文ちゃんはいるんでしょ?」
「ちょっ!文ちゃんってなによ!」
「ええー、昔理子がそう呼んでたって文ちゃんから聞いたよ!」
私は文華の方を見る……でも、普通の顔をしている。
「だって……昔は呼んでくれてたじゃん……」
「全く……文華がいいならいいけど……」
「理子は呼ばないの?」
「やっぱりそう来たか……呼ばないわよ。」
(だって今は文華を呼び捨て出来るのは……)
「ええー!呼んであげなよー!可哀想!」
「うっさいわね!こっちにはこっちの事情があるの!」
私はお昼の支度をするために席を立った。早苗と桃華はまだ寝ていたが流石に起こした。あとは帰って寝てと言う事で。
「もう12時じゃん!早く起こしてよ!」
「なら、自分で起きなよ桃華。」
「私こんな時間まで寝たの初めてかも……」
やはり早苗は優等生だった。きっと規則正しい生活を送っているのだろう。
「ほら、ホットサンド作ったから食べて帰って、私は16時からバイトなんだ。」
「そうなの?それこそ早く言いなさいよ!そしたらのんびりしてなかったのに。」
「気にしなくていいわよ。それにそんなふうに焦らせたくなくて言わなかったのだからさ、ほらほら、ツナサンドとたまごサンドしかないけど食べてみて!」
「そっ、じゃあお言葉に甘えて……いただきます!」
「美味しい!」
「うん!これはいける!」
「理子は料理はなんでも出来るんだね。」
「なんでもってわけではないけどある程度一人暮らしするにあたって仕込まれたからね。」
「へぇー……いいお母さんだね。私なんかキッチンに行くと怒鳴られるよ。」
その言葉に全員昨日の事を思い出す。
「納得ね。」
「納得だわ。」
「納得」
「うん……仕方ないわね。」
「いやいや!私だってちゃんと習ってたらあんな事には……なってないかも……?しれないじゃん!」
「途中で疑問系にしたら説得力ないわよ。」
そんな談笑をしているともうすぐ13時になる。
「じゃあ月曜日ね!」
「うん、気をつけて帰ってね!」
「理子はバイト頑張ってね。」
「はいはい!」
「文ちゃんもまたね。メッセージいつでも待ってるから!」
「ありがとうございます……」
いろいろあったが楽しい1夜だった。みんなを見送った後、文華が話しかけてくる。
「りーちゃん……」
「な、なんで!いきなりそれを!」
りーちゃんとは昔文華が私を呼ぶ時に使ってたあだ名だ。いきなりそれで呼ばれてびっくりした。
「大丈夫、みんなには言わないから……」
「いや、なんで今?」
「……思い出したんだ。いろいろとね。」
10年前……
「文ちゃーん!」
「王鷹さん?」
「理子でいいよー!また1人なの?」
「うん……王鷹さんは?」
「理子でいいよ!運動場から文ちゃんが見えたから誘いに来たよ!」
「……ありがとう……でも、私運動苦手だから……」
「知ってる!だけど文ちゃんにしか出来ないから呼びに来たの!」
(私にしか……)
「うん……じゃあ行く。」
私は理子に手を引かれて草木の多い場所に連れてこられた。
「おーい!姫鷲さん連れてきたよ!」
(えっ?)
私は少し戸惑った。さっきはあだ名で呼んでたのに急によそよそしくなってしまったから……私と仲良しなのがバレたくないのかな?
「ねぇねぇ!姫鷲さん!これ作って!」
見せてきたのは花冠だった。
「先生に教えて貰ったけど出来なくてさー。姫鷲さんなら出来るかもって王鷹さんが……」
「だってー、この子めちゃくちゃ手先器用なんだもん!ねぇねぇ出来る?」
「うん……お母さんに習った事があるから出来ると思うよ……」
私はモヤモヤした気分で帰り道を歩いていると後ろからランドセルを掴まれた。振り返ると私をいじめる子たちだった。
「今日は1人なんだな!じゃあ俺たちのランドセル持てよ!」
「俺のもよろしく!」
「俺のもな!」
「えっ……やだ……」
「はぁ?なんか言ったか?」
「……」
「いつも助けが来ると思うなよ!お前を助けてくれる王鷹は今頃先生に捕まって……いて!」
話が途中で切れたので何かと思って後ろを見ると……
「王鷹さん……?」
「お前らまた姫鷲さんいじめてたのね!今日という今日は許さないわよ!姫鷲さんランドセル貸して!」
「えっ?」
有無を言わさず私からランドセルを奪うと王鷹さんはそれを工事現場の中に3つとも放り込んだ。そして工事現場から怒声が聞こえた。
「コラー!誰だこんなもん放り込んだヤツらは!」
「王鷹テメー!」
「私は何もしりませーん!行こ!姫鷲さん!」
「う、うん!」
「待て……」
「待つのはお前らだ!こんなイタズラしてタダで済むと思ってるのか!」
その後は見てなかったけど後ろから絶叫が聞こえていた気がする。
「あ、ありがとう……ございます……」
「もう!文ちゃんたら酷い1人で帰っちゃうなんて!」
「えっ……あ……ごめんなさい……」
「うん!許す!」
ニコニコしてる王鷹さんはかっこよくて可愛かった。だけどそんな事より聞きたい事があったのを思い出す。
「あの……王鷹さん……」
「理子でいいよ!」
「あの、なんで友達の前では……その……名前で呼んでくれないんですか?」
「ん?だって真似されたくないじゃん!」
「えっ?」
「だってー、今この学校で文ちゃんって呼べるのは私だけなんだよー!それって私だけの特別で文ちゃんにとっても特別じゃん!」
「……つまり2人だけの秘密という事ですか?」
「そうそう!それね!私と文ちゃんだけのね!」
「じゃあ……私も……」
「ん?」
「私も2人きりの時はりーちゃんって呼んでも……いいですか?」
「おおー!もちろんだよ!じゃあ2人の時は文ちゃんりーちゃんね!」
「はい!」
この約束は中学まで続いた。そして高校以降は今のままとなった。
「懐かしいわねー。」
ほんのひととき私と文華はコーヒーを飲んでいた。そろそろ行く時間だ。
「そろそろ行くけど戸締りしっかりね。21時には帰るからそれまでに夕飯の準備よろしく!」
「うん、分かった。」
「じゃあ行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
扉を閉めて前を向く。そして恐らく今文ちゃんと呼ばない理由をもう文華は気づいている事を自覚する。
「まぁいっか!」
そうして私はバイトに向かうのだった。
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