第13話 金曜日
雨の日と言えば憂鬱だ。外では遊べないし家の中は湿気と暑さで気がめいる……なのに家の中には騒ぎまくる友人が来ていた。
「今夜はよろしく!」
「お邪魔しますね!」
「お邪魔します!」
そう桜、桃華、早苗が来たのだ。なんと泊まりに……文華も今日だけは早めに勉強を切り上げていた。
「いらっしゃい。でも、ここ狭いわよ?5人で寝られるかな?」
「寝られるでしょ?私は寝ようと思えば座ってでも寝れるし。」
「桜はまぁわかるけど、問題はデリケートな3人よね?」
「私も大丈夫だよ。普段は床にお布団敷いて寝てるし。」
「私も問題ないわ。それより……早く文華ちゃんを貸して!」
この2人は意外とタフなのか……それとも遠慮しているだけなのか……でもこちらもあまり気にする必要はなくなった。
「じゃあ私は夕飯の準備をしてるから自由にしててよ。」
「じゃあ私は手伝おうかな。メイクは手伝えないし……」
「えっ?桜って料理作れるの?」
「そりゃー一応はね。いずれは一人暮らしする予定だしさ。作れる様にはなってるよ?」
「うぎゃゃぁぁぁ!締まってる締まってる!ギブギブギブ!!!」
澄ました顔をして私の首をロックして締めあげられた……おかげで落ちかけた。早苗は逃げるように文華と桃華のいる場所に逃げて行った。
「じゃあ何作るの?」
「うーん……暑いからソーメンとか?」
「友達とのパーティでソーメンはないっしょ!」
「冗談よ。とりあえず鶏肉とか買ってるから唐揚げとかなら作れるよ?」
「あるじゃん!そういうのよ!他には……ジャガイモあるね。これ薄く切って一緒に揚げよう。」
「いいね、じゃあ任せていい?ついでに薄く切ったのを頂戴。それでもう一品作るからね。」
「もしかして、ポテトパイ?」
「正解!あとはサラダを用意して……」
などと2人で話してる間に後ろでは文華のメイクが始まっていた。
「うーん……やっぱり綺麗な顔ねー。メイクが必要ないかと言われると必要だけど、毛穴をまずは塞いで……そこから……アイシャドウを……」
「桃華さん始めようよ。文華さんも待ってるよ?」
そう文華は目をつぶって大人しく待っていたのだ。
「まぁ待ってよ。ここまで土台が良いとじっくり観察もしたくなるんですよね。」
「桃華さんはプロのメイクさんになった方がいいんじゃないかな?」
「そうですね。後々にはなると思います。でもその前にやりたい事があるんですよ。」
そう言って桃華はバックからメイク道具一式を出して文華にメイクをしていく。
「やりたい事って?」
「成分研究です。アレルギー反応が起こらない安全な化粧品作りよ。小麦アレルギーの人がパンを食べられる様に米粉でパンを作った様に私にもそういう事を私もしたいんです!」
「凄いですね。私にはまだそんな大きな目標がありません。ただ生物が好きでここまできたので。」
「好きこそ物の上手なれって事もありますよ。それに何より大切な事は好きになる事だと私は思います。好きじゃないと壁にぶつかった時乗り越えられませんからね。」
「そうだよね……今の私には生物学が好きってことしかないですが……研究したいテーマが見つかるまで勉学に励みます!」
「それがいいと思う……よ……やっぱりすごいわね。」
桃華の反応に思わず早苗も文華を見た。すると早苗も同じような反応になった。
「あー……確かにこれは理子が外ではやめてって言うのもわかるね。」
軽く、薄く……それだけで完成してしまう。文華はやはり逸材だと思った。
「あとは口紅かな……あー……私にもっと技術があれば……」
などと桃華は言っているが私たちの中では1番上手いのだ。
「お2人は……」
そこへ先程から黙っていた文華が話始めた。
「しっかりと自分の好きをもっているのですね。」
「その言い方だと、文華さんは持ってない様に聞こえますが?」
「はい……私には……何もないです。」
「そうですか……では、今から見つければいいんです。遅いなんて事はありませんから。」
「でも、こんなふわふわした状態で大学へ行っても……」
「やりたい事を見つけるのも学校へ行く目的だよ。桃華さんは具体的な夢があるけど、私はまだないからね。でも、好きなことは探してから。これからやりたい事を探す。そういうのでもいいと思うよ。」
「そうなんですかね……?」
「うーん……たぶんですが、文華さんはもう好きがあるのではないですか?」
「そんなのは……まだないですよ?」
「いえ、勉学ではなく……好きな人がいるんじゃないかなと?」
文華はドキッとした。しかし動揺はしてなかった。
「分かってるわよ。理子でしょ?」
しかし桃華には分かっていた。恋心をそして私は聞こえてないふりをしていた。
「……はい……」
「な〜に?自信ないの?」
「はい……理子は私の事……嫌いみたいなので……」
「大丈夫よ。きっと上手く行くと思います。」
「なんでわかるのですか?」
「理子は好き嫌いがはっきりしていますからね。嫌いなら一緒に暮らしてないと思います。」
「それに理子ったら文華さんが入院してる時はいつも授業終わったら毎日走って帰ってたもの。恋人が出来たって3人でよく話してたんだから。」
なんでバラすかな……狭い部屋だからよく聞こえる……だから顔が真っ赤になるのが自分でも分かった。
「そうだったんですね。」
「そうですよ!あとは推して、推して、推すしかないですよ。」
いらん世話だと心の中で思っていた私は唐揚げを作っていた。そしたら隣の桜が茶々を入れてきた。
「ねぇ、理子は文華ちゃんの事どう思ってるの?」
「別に……どうも思ってないけど?」
「あっそ、じゃあ文華ちゃんは私が貰おうかなー。」
私の頭はスッと切り替わった。
「盗ったら殺す……」
「ダメならそう言いなよ。」
私は咄嗟にそうなった事に驚いていた。
「……ごめん……そうだよね。悪かったわ。」
「好きならさっさと応えてやんなよ。」
「……それはできない!これは勝負だから!」
「何の勝負してるのよ?」
「秘密よ!それは絶対言わない!」
私のその顔はきっと笑っていたのだろう。桜も不敵に笑っていた。そして唐揚げもそろそろ出来上がるのだった。
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