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ある日常

何となくお話を書いてみたいと思い書き始めました。

アドバイス等あれば教えてください、文字数とか改行とか

「風が吹けば桶屋が儲かる」という突拍子もないこじつけのような諺がある。概要は、風が吹くと砂埃が舞い、そのせいで失明する者が増えて、盲人となった彼らは三味線弾きになるしかなく、三味線の材料の猫がたくさん殺され、鼠が大量発生、その鼠ががりがり桶をかじるので桶屋が繁盛する、とそんな具合だ。


 砂埃程度で失明するやつなんているのか、いやこの世界においてはどうかは知らないが、いまいちピンとはこないし、そもそも三味線に猫の皮を使うというのがどうにもいただけない。そんなことを猫の頭をわしゃわしゃと撫でながら思う。


「さっきから心ここにあらずだね、具合でも悪いのかい?」

「なんでさっきから髪をぐしゃぐしゃにされる?禿げたら困るが?」


 同部屋の男がどこか楽しそうに尋ねてくる。彼とは半年ほどの付き合いしかないが、人生の中で最も感謝している内の一人である。今ここで不自由なく生きていけるのは彼のおかげだ。


「いや、今日は風が強いなと思って。俺の故郷では風が吹くと猫が死ぬっていう言い伝えがあって」

「!?なんで!?」

「まぁ、どうでもいいんですけどね。ご飯にしましょう」

「どうでも良くないが?おい、なんでだ、聞いてるか、おい」


 猫が不満そうに何やら騒いでいるが、腹でも減っているのだろうか。撫でるのをやめて食事にとりかかる。猫はいつか飼いたいと思っていたが、ついぞ叶わなかったなぁとしみじみ思っ


「なんで死ぬの、おい」

「あれ、パンがない。嘘だろ、この短時間で貴重な栄養源が半減した」


 と、わざとらしく驚いてみせる。まぁ、なんでなくなったかは百も承知なのだが、一応気づいていないふりをして容疑者に目を向ける。向かいの席の彼はいつものニコニコ顔。右隣の猫はなぜかのしたり顔。


「私は食べてない。()()()が食べました」

「おや、今日は僕が食べたことにするのかい?これは困ったなぁ」


 と、全く困った様子もなく楽しそうに笑って見ている、いや見守っていると言っても過言ではないくらい優しい眼差しだ。出会った当初の、物理的に冷たいんじゃないかと思うくらい冷たかった視線を思い出すのが難しいくらいだ。こんな優しい彼に罪を擦りつけることを思いつくなんてどうかしている。昨日はパンが勝手に口に入ってきたので仕方なく食べたと証言、ある時は初めからパンなど存在しなかったと証言、パワープレイが過ぎる。今日はどんな理由でパンがなくなるのか少し期待していたが他人のせいにするのはいただけない。今日はきつめの説教が必要になるなとおもったがしかし、この猫の曇りなき眼差しは一体どうしたことだろうか。十中八九犯人はこの泥棒猫のはずなのだが、一切の悪気が感じられ無い。「まったく、困った耳の人だな」と呟く始末だ。芸が込んでるではないか。まさか本当に今日はやっていないのだろうか。どうやら確かめる必要がある。


「まぁ、あのパンは食べたらお腹が光りだして大変だからな。食べなくて良かった、良かった」


 猫が横でごそごそ動き出しヘソをだして何やら心配そうにあたふたし始める。


「い、いつ光る?どれくらい光る?」

「やっぱお前が食ってんじゃねぇか」

「ククク、、」


 楽しそうに笑う男を横目に、猫の耳を軽く引っ張りながら今日はどう説教してやろうか考える。もう日常茶飯事となってしまっているが窃盗は犯罪である。他所で他人さまのパンを盗み食いし、あまつさえそれを他人のせいにするような駄目な大人にならないように今日も心を鬼にする。いや、この嘘のような嘘で尻尾を掴ませてしまうことも心配ではあるのだが。


「人の物は盗らない、嘘はつかないって何度言やぁわかるんだ、お前は。飾りなのか、この耳は」

「痛い、痛い、あれ?、そんなに痛くないな、はんっ」

「なんで5秒も反省できないんだ!?お馬鹿さんか?お馬鹿さんなのか?」

「ぎゃあ、痛い痛い、もうしません、、離せボケ、、ぎゃあぁ、ごめんなさい、痛い痛い、くそっ、ボケー」


 悪びれもせずなぜか勝ち誇った顔をした上、反省の余地が全く見えない、さらに最後まで俺への罵倒をやめない馬鹿の片耳を少しずつ上げていく。まるでボリューム調節のつまみのように、引っ張るほど悲鳴はでかくなるが、今日はこの馬鹿がいつか刑務所に入れられることのないように心を鬼にして、、いやもう手遅れかと気づきパッと手を離した。


「はぁ、まったく」

「もうまったくまったくだな!」

「お前が言うな!」

「ククク、、」


 知らない世界に飛ばされてから早一年。ピコピコ可動する耳をさすりながらまるで不当な罰を受けたかのような顔をする猫耳の生えた馬鹿な獣人と、そんなやり取りをいつも楽しそうに見守るイケメンエルフと共に刑務所の食堂で飯を食う。こんなことになるなんて誰が想像できただろうか。一体どういう風の吹き回しでこんなことになっているのかと言うと、一年前の、今日のような嵐の日に遡って、、


「おや、また考え事を始めたみたいだ」

「もう一個食べてもいいってことか?そういうことか?」

「いいわけねぇだろが」


 猫は育ち盛り、食べ盛りの子供である。年齢で言うと10歳くらいだろうか、正確な年齢は彼女もわかっていない、そんな子供に毎日俺の食事から食べ物を分け与えるというのが恒例化している。出会った初めのうちは警戒心から、差し伸べたパンを叩き落とすように奪いとり他人に盗まれまいと大急ぎで食べる、それこそ誰も信じていないような野良猫のような態度であったのに、今ではすっかり図々しくなったものだとしみじみ思う。なんとなく猫の頭にまた手が伸びる。自然と自分の口元が緩むのを感じた。撫でられた猫は不思議そうな顔をしたが、特に嫌がる素振りも見せず、撫でられるがままになっている。


「耳の人、なんで今日はこんなに頭触られる?」

「さぁ、なんでだろうね」

「おい、なんでわしゃわしゃする?」

「さぁ、なんでだろうな」

「?訳がわからんな、お前は、まったくまったく」


 猫は彼のことを「耳の人」と呼ぶ。これは他の囚人達が陰で彼の事を長耳だとか耳長だとか呼ぶのを聞いたためだ。何度か治そうとは思ったのだが、彼女は俺のこともいまだにおい、とかお前、とかしか呼ばないので諦めている。


「ほら、ミーナ、僕のもひとつあげるよ」

「おぉ、耳のお方ぁー、ははは、おい見たか、耳の人は優しいな」

「俺の分も食ったくせに。フレイさんもちゃんと食ってくださいよ、この馬鹿猫の胃袋は際限なしなんですから。日に日に食う量が増えてないか、お前は。あと、ものをもらったらありがとうだ」

「あふぃふぁふぉう」

「ククク、どういたしまして」


 俺はフレイさんの三人称は彼だと思っているのだが、こうして嬉しそうに微笑む姿を見ると、彼女なのかもしれないと思わないでもない。ただ半年経った今さら「あの、フレイさんって男ですよね?」などとは聞くに聞けない。彼?とは同部屋なので男だとは思うのだが、日に日に自信がなくなってきている。禁欲的な生活に身を置いてるせいでそのように見えてきてしまっているのかもしれないが、それを差し引いて考えたって彼は中性的に過ぎる。


 ふと目の端が光を捉えたかと思うと遠くで雷が鳴った。目の前の食事をパクパクとかきこみながら、ミーナの耳だけが器用に音の鳴った方に向く。食堂には他の囚人もいるのだが、結構近かっただの、明日働く前には止んでほしいだの言うのが聞こえた。


「嵐で採掘作業が中止って今までありました?」


 疑問に思ったので、俺より長く収監されているフレイさんに尋ねた。同じ食事をとっているとは思えないほど優雅に野菜クズのスープを匙で掬っていた彼は少し手を止めて考え始めた。


「ううん、僕は部屋の中で一人ひたすら精製作業だからね。他の人がどうなっているかなんてあまり気にしたことがなくて。ただ休息日以外に仕事がない日なんてのはなかったなぁ」

「そりゃそっすよね」


 我関せずとばかりに器からダイレクトにスープを口に流し込み終わったミーナが一息ついてから、なんとはなしに俺の食事に目を向けているのがわかった。まだ食い足りないだろうか。素手で奪い取れる食糧がないとわかるや、空になった自分の皿をもう一度見つめ直し、わずかな残りはないかと探し始めているのがわかる。こんなん見たら俺は見て見ぬふりをできるわけもなく、軽くため息をつきながら、昨日手に入れた干し肉をポケットから出して皿の上に置いてやる。


「俺が食うには硬すぎたんだ、食えるなら食ってもいいぞ」

「おおー、いいのか、返せっていっても返さんが?」

「言わねーよ、早く食わねぇと俺が食うぞ」


 ありがとうも言わずガジガジと干し肉に齧り付く。どこにも食った跡などない干し肉を渡した後、生暖かい視線を感じて前を向くとフレイさんと目が合う。全部分かってるよとでも言ってるようなフレイさんの視線が妙に気恥ずかしく、気付かぬふりをして食事を再開する。美味くもなく不味くもないスープはいつも以上に味が分かりにくい。あぁ、そうですとも、猫にやるために干し肉を買いましたとも。味のしないスープをさっと食い終え、後は猫の観察でもしようとミーナの方を向いた。嬉しそうに齧っていたが何かを思い出したように動きを止めたミーナが半分ほど食べた干し肉を見つめ、なぜか俺の方をチラッと向き、もう一度干し肉を見つめて残りを手で二つに裂いた。


「あー、えー、硬いから、もういい!あとはやる!耳の人もはい!」

「ありがとう、ミーナ」

「俺がやったやつだけどな」


 どうやら素直じゃないのはこいつも一緒らしい。食い終わった食器を乱暴に重ねて洗い場の方に向かって行った。ズボンから覗く彼女の尻尾はピンと立っている。あれは猫の機嫌がいい時だったか、悪い時だったか。もう手軽にネットで検索して調べる事ができないので確かなことはわからないが、たぶんいい時なんだろうと結論づけ押し付けられた干し肉の残りを口に運ぶ。食いさしの干し肉は硬く塩辛かったが悪い味ではなかった。


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