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親切な王様の就職先斡旋


 王との面会を果たした俺だったが、その後なかなか牢からは出してもらえなかった。


 おおよそ1週間ほどクサイメシを食べたのち、俺の輝かしい功績を考慮し、今回起こした事件に関しては不問という事になった。


 そのために王が色々と取り計らってくれたことには感謝するほかない。


 身柄の拘束が解けた俺は、早速その王の間へと連れていかれた。


 「来たかネロ。牢の中で少しは頭が冷えたか?」


 「おかげさまで。この時期、牢の中はまだまだ寒うございましたから」


 「口の減らん奴じゃ。まあ良い」


 「今後の俺の事、なにか決まりましたか」


 「うむ。そのことについてじゃが……お主の身は、この王国預かりの身となった」


 「預かりの身、というのは……」


 「端的に言うと、お主が今後何か問題を起こしたときにはこの儂が責任を持つ。ただし、いつも今回のように庇いきれるとは限らんぞ」


 「はっ。ありがとうございます」


 「お主には有事の際にまだまだ働いてもらわねば困る。例え今がその時でないにしてもな」


 「要するに、リーサルウェポン的な」


 「リーサル……? 何を言っとるか分からんが、それまでこの儂に恥をかかさぬよう精進せい」


 「はっ」


 今後俺が何か問題を起こした際には、その責任を王も問われる事になる。

 色々と自堕落でだらしない俺も、好んで彼に恥をかかせようとは思わない。

 真面目に生きるためには、こういう枷も必要なのかもしれない。


 「それでこれからのお主の処遇についてだが……今後ネロには、ある貴族の家で働いてもらうことにした」


 「ある貴族、ですか?」


 「そうじゃ。お主はこれからそこに赴き、その貴族の指示に従い真面目に暮らせ」


 「分かりました。して、働くというのはどういった内容でしょうか」


 貴族の家で働くというのは決して悪い条件ではない。

 給料もそれなりに良いはずだし、冒険者ギルドの仕事のように命を失う危険を冒すこともないだろう。


 しかし社会経験のない俺にとって、できる仕事は限られている。


 「ネロよ。これからのお主の仕事、何だと思う?」


 「皆目見当もつきませんが……俺の腕っぷしを見込まれたとすれば、用心棒でしょうか?」


 「いや、下僕じゃ」


 「下僕?」


 「平たく言うと使用人じゃな。お主はずいぶん使用人の仕事を軽く見ておったから、ちょうどよいかと思ってな」


 「そこまで軽く見たつもりもありませんが……」


 下僕とか、めちゃくちゃ言葉の響きが悪いな。

 給料だけは良さそうだと思っていたのに、何だか雲行きが怪しくなってきた。


 しかし、俺の身はすでに王室預かり。

 王の言うことは絶対であり、断ることは決して許されない。


 「お主は確かにこの国を救ったかもしれぬが、歳も若く人としての経験も少ない。そのせいで今回のような残念な顛末になったのじゃろう」


 「下僕を務めあげれば、その経験とやらが手に入りますか?」


 「おそらくはな。……何じゃ、不満か」


 「いいえ。寛大な処遇に感謝いたします」


 断ることは許されないが、特に断る理由も見つからなかった。


 なんせ今の俺は住む家もなくカネもない。


 使用人なら住む場所が手に入るし、安くても給料は安定して支払われるはずだ。


 今の俺が見つけられるとりあえずの仕事として文句のつけようがなかった。


 「それで、俺を雇っていただける貴族というのは王都の方ですか?」


 「いや、それは違う。ここから南、フェローム地方を治めている貴族じゃな」


 「フェローム地方……少し王都から離れますね」


 「名はフラウムシュバイク・フォン・ロイス公。お主も良く知っておろう」


 「えっ」


 「もちろん、ロイス公の娘とは婚約を破棄したのは知っておる。それはそれとして、うまくやれ」


 「一言良いですか。それはさすがに気まずいと思います」


 うまくやれ、じゃなくって。


 「大丈夫じゃ。ロイス公は今でもお主の事を大層買っておる。この話を持ち掛けた際には、ぜひともうちでと乗り気じゃったんじゃぞ?」


 「ロイス公はともかく、その娘のリュクシーヌが問題です」


 「それも今や問題あるまい。リュクシーヌはすでに新たな婚約者を見つけておると聞いておるし、今更身を持ち崩したお主が家に来たとて、屁とも思うまい」


 「はぁ……」


 そうか……彼女はもう新たな婚約者を見つけたのか。

 少しだけ寂しい気もしたが、それは仕方のない事かもしれない。


 しかし、ロイス公が今でも俺を気に入ってくれているというのは意外だ。

 王様が強権を発動し、強引に俺を押し付けたわけではないらしい。


 「ロイス公爵は、お主の境遇をとても不憫だと言っておった。それに、国の救世主が屋敷にいてくれたら心強いことこの上ないともな」


 「身に余るお言葉ですが……しかし、ロイス公爵の家ですか」


 「言っておくが、お主に断る権利はないぞ」


 「承知いたしております」


 「明朝、ロイス公の屋敷に発て。馬車はこちらで用意しよう。手荷物があるなら今日のうちに用意せよ」


 「分かりました」


 「他にまだ何かあるか? なければ、公務に戻らせてもらうぞ」


 「ひとつだけ宜しいですか?」


 「なんじゃ?」


 「帰る家がないんです。もう一泊だけ、牢に泊めてもらえませんか?」


 「……ネロよ。お主にこの国を救われたかと思うと儂は情けなくて涙が出るわい」


 「拭いて差し上げましょうか?」


 「いらんわ! 今夜は王宮の客室に泊まって良し! 朝目が覚めたらとっとと行け!」


 「ははっ」


 王は跪く俺を残し、玉座の間を去った。


 なんだかんだ面倒見のいい王の計らいで、俺は一晩のベッドと食事をゲットすることができた。


 今後の事に色々と不安はあるが、今は考えないようにしよう。

 何せフェローム地方に向かうとなれば、馬車に乗っても一日かかる。


 今夜は寝心地のいいベッドでゆっくりと英気を養わせてもらうことにした。



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