第参拾話 参
「イカが開く? 華鈴、どういうことだ?」
「りんちゃんは、イカの開きが食べたいとか?」
「イカの開きってなんだよ。一夜干しの事だろ」
「それは響希の好きな食べ物じゃん。イカの一夜干しはさ」
「響希氏、僚氏。もしかしたら華鈴は、イカの刺身が食べたいんじゃないか? もしくは寿司」
「おぉ! 流石は、華鈴の彼氏!」
「おぉ! 流石、りんちゃんの彼氏!」
通じてなかった。途切れ途切れの言葉を紡いだ結果だもん。仕方ない。
「異界が開く。じゃないかな。雪村さんが言っていたのは。音築様が言っていたって」
「華鈴は音築と会ったのか? 俺とずっと一緒にいたのに?」
「妖念感じゃないかな。りんちゃん、妖の念を感じられるから」
「倒れた理由が分からないのは、妖念感だからだろうな」
「熱中症じゃなくて? 華鈴は無事なのか?」
「大丈夫。桃麻氏、落ち着いて。少しすれば、また元気になる」
皆の会話が小さく聞こえてくる。
異界が開く。一体、何が起きているんだろう。
「雪村さん、何か飲む? と言っても、麦茶とスポーツドリンクだけど」
吾妻さんがペットボトルを2本手にし、私の元へ来た。
「ぁり……と。ぉちゃ……。のみた……」
「お茶ね。ちょっと待ってて。キャップ開けるから。起きれる?」
「うぅん」
自力で上体を起こそうとしても、体に力が入らない。
「華鈴ちゃん、手伝うよ」
「舜、ちょっとこれ持ってて。雪村さん、ちょっと失礼します」
高坂先輩と吾妻さんのおかげで、なんとか上体を起こせた。
「ありがと、ございます。高坂せん……ぱぃ、吾妻さん」
「いいよ。はい、麦茶」
吾妻さんから受け取った麦茶を一口飲んで、少し落ち着く。
「異界開くって、音築様、言ってた。急いで、この地、から、離れろって」
「帰った方が良さそうだな。俺は満足したけど、美穂さんはどう?」
「満足したよ。モルモットとふれあえたし、ジェラート美味しかった!」
「僕も、買いたいものは買えたし、満足かな」
「あたしも満足した。帰ろう。あれ? 舜、どうかした?」
「いや、えっと……」
口ごもる須崎さん。何か言いたそうにしている。
「正直に言ってくれていいよ、舜氏」
「うん。分かってる。あの、ちょっと買おうと思っていたキーホルダーがあるんだけど、グッズ見てた時に、連絡もらったから……。でも、ここまで来て、諦めたくなくて」
沈黙が医務室に広がり、遠くからセミの羽音が聞こえていた。
そして、口を開いたのは……。
「そんなこと考えてたの!? 雪村さんが倒れたのに!? しかも、異界が開くって、土地神が言ってるのに!? 早く帰ろう!」
「分かってる。分かってるけど、キュアライフ限定の、がたラビグッズなんだよ」
「がたラビグッズなんて、たくさん持ってるじゃん!」
「持ってても、がたラビファンとして、買いたいんだ!」
がたラビ。それは新潟県のマスコットキャラクター。耳が笹団子の形をしていて、ぱっちりお目目の可愛い、新潟県大好きな野うさぎの聖霊(設定)。
新潟県内外にファンが多く、誕生してから毎年年賀状が一万通以上来るのだとか。
「あのー、須崎さん」
「何ですか? 雪村さん」
「まだ私、動けそうにないので、買いに行っても、大丈夫ですよ」
「本当ですか!? 行ってきます!!」
私の言葉に、パァッと表情を明るくした須崎さんは、閃光の如く医務室を飛び出して行った。




