第参拾話 弐
「くっそ。ゴールのフラッグは見えてるのにな」
「うーん。中々手強いね。ゴール後のモフモフ目指して! こっちに行ってみよう!」
「ちがっ。華鈴、こっちだ!」
桃麻に主導権を握られること、十数分。
ヒマワリの圧迫感が無くなり、ツル植物で飾られたアーチが見えてきた。
「ゴールだね! 桃麻のおかげだよ!」
「まったく。華鈴に任せていたら、一日が終わってしまうだろ」
「そんなこと、ないと思うけどなぁ」
「はいはい。ゴールした訳だし、モフりに行きますか」
「行こう! その前に、喉渇いた。フードコート行こう!」
「フードコートって、何処にあるんだ?」
「今いるのはここだから……。ショッピングエリアの中だね」
入場ゲートで受け取った施設マップを広げ、現在地とフードコートの場所を確認する。
「それなら、少しは涼めるかもな。俺も何か飲みたいし、お昼まだだったな」
「そういえば、お昼まだだね。完全に忘れてた」
「早く行かないと、混んでるかもな。時間的に……。華鈴!? どう……」
その言葉を聞き終わる前に、私は目の前が真っ暗になり、強い耳鳴りが襲ったと同時に、そのまま倒れてしまった。
***
『今すぐ、この地から離れよ。妖眼の人間の子よ』
誰の声だろう。暗闇の中、私に話し掛けて来るのは。
――貴方は誰?――
声が出ない。口を動かしても、喉からは、空気が溢れるだけ。
『我が名は、音築。この地を守る、土地神だ。お前達のことは、社守の篠ノ月より、聞いている。我に面会したいとな?』
――はい。ですが、篠ノ月? そんな名前の妖には会っていません――
『店に入らなかったか? 喫茶店とやらの店だ』
――会いました。喫茶店のマスター、妖名を篠ノ月と仰るんですね――
『そうだ。我に会う前に、この地より離れよ』
――何が起きているんですか? 会って話せませんか?――
『そのような時間はない。異界が開く。急げ、異界に呑み込まれるぞ』
――異界……ですか?――
『我の結界により、時間稼ぎは出来ているだろう。しかし、いつ破られるかは、我も知らぬ。急げ、人間の子よ』
その言葉の後、何かに引っ張られるような感覚を覚え、目を開けた。
無機質な天井が目に入り、真っ白なベッドに横たわっていることを実感したのは、少し遅れてから。
「華鈴!」
「大丈夫ですか? 雪村さん」
「響希君たち、呼んでくるね」
「あたし、飲み物買ってくる」
心配そうに顔を覗き込んで来たのは、桃麻と須崎さん。
吾妻さんと高坂先輩は、私が目を覚ました後に、何処かへ行ってしまった。
「りんちゃん!」
「華鈴、大丈夫か!?」
響希君と僚君が私の元へ。
早く皆に伝えなきゃいけないのに、声が出てこない。
喉からは空気が漏れるだけ。それでも、伝えなきゃ。
「……いか……。い、が、ひらっく。ぉとの……づき。さまがぁ……。いっ……。てた」
辛うじて出た声が、皆に届くだろうか。
一抹の不安はあるけれど、どうか届いて。




