第弐拾玖話 漆
駅から少し住宅街に入った辺りで、ノスタルジックな雰囲気を醸し出す喫茶店に到着。
「ハードボイルドな店主がいるのかな」
「級長、何言ってんの?」
「何って、店名がマーロウだよ? ハードボイルドな探偵の名前なんだ。世界的にも有名だよ」
「舜氏。世界的に有名なのは、ホームズだろ」
「はいはい。この話の続きは、中でしよう。それとも響希と舜氏は、外で話してる?」
カララン。と鳴り響くドアベルの音に気づいたのか、バックヤードから白髪交じりの中年男性が現れた。
店内も落ち着いたノスタルジックな内装で、『これぞ喫茶店!』と言える。
心地よい音楽が流れていて、居心地良さそう。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「七人です。大人数ですみません」
「いえいえ、たくさんの方に来て頂けて、嬉しい限りです。どうしましょうか、四人掛けのテーブルでよろしいですか?」
「はい」
高坂先輩が対応してくれて、私たちは四人掛けテーブル二席に分かれて座った。
「さてさて。ごめんね、桃麻氏、りんちゃん。お邪魔します」
「どうぞ、僚氏。ゆっくりしようぜ」
「何飲もうかな。お、桃麻、僚君! ミルクセーキある! クリームソーダも捨てがたいっ!」
「じゃあ、俺とシェアするか? 両方頼めば、両方飲める」
「良いね、それ!」
メニューを見ながら、私たちが飲み物を決めていると、僚君が私たちを見てニヤついている。
「熱々ですな~。お二人は」
「そんなことは、ない。よね? 桃麻」
「そうそう。華鈴とは幼なじみだから、いつも通りだよな」
「そっかそっか。微笑ましいね」
「僚君は何飲む?」
「僕はね、メロンソーダ」
飲み物を注文して、いよいよ本題へ。
響希君たちの方も飲み物が決まったようだ。
「どうしますよ、皆さん。僕はどちらでも良い」
「結界が張られている以上、俺としては土地神に会いに行く」
「結界ってヤバいの? あたしたちは妖怪見えないし、よく分かんない」
「俺も妖怪見えないけど、土地神だっけ? 興味ある。華鈴が行くなら、通訳してくれるだろうしな」
「私はキュアライフに行きたい。せっかく皆で来たのに、もったいないよ。高坂先輩はどうですか?」
「ん~。ここまで来たんだもんね。キュアライフに一票」
「俺も、キュアライフ。妖が見えるようになったけど、まだ気持ちの整理が出来てない……」
話をまとめると、中立が二票。土地神の音築に会いに行くが二票。キュアライフが三票。
「決まりだね。キュアライフに行こう」
「音築には会わないのか」
「私たちだけだったら、音築一択だったね」
妖眼である私たちだけなら、音築を迷わず選んでた。だけど、今日は違う。妖眼じゃない桃麻や吾妻さん、高坂先輩はそうじゃない。
「お待たせしました。アイスコーヒー二つとアイスティー二つです。こちらはミルクセーキとクリームソーダ、メロンソーダです」
「ありがとうございます。あ、ミルクセーキはこっちです。クリームソーダとメロンソーダも。ありがとうございます」
私たちのテーブルでは、僚君が受け取ってくれた。
「はい。クリームソーダはどっち?」
「俺で良いか?」
「いいよ。ミルクセーキは私」
「りんちゃんがミルクセーキね。桃麻氏がクリームソーダ」
「ありがとう、僚君」
「ありがとう、僚氏」
するとマスターが、カウンターに戻らず、何か言いたげにしている。
「皆さんお若いのに、音築様をご存知でしたか」
驚きのあまり顔を見合せる私たちは、しどろもどろ。
マスターに音築のことを聞いてみるのか、聞かないのか、誰も答えを見つけられない。
だけど何か知っているのなら、聞いてみるのも悪くないはず。




