第拾玖話 弐
朝のHRが始まる少し前に、青柳君を無事に捕獲出来たようで、響希と平坂君は、お疲れ気味。
「ほらー。席に着けー」
教室に入ってきた先生は、いかにもダルそうにしている先生。
「はい。今日から新学年となりました。俺は担任ではなく、副担任です。担当は国語。二十七歳、ちなみに独身、よろしくねっと。自己紹介は以上」
教室中、おいおい。な感じで、名前言ってないし、最後の方なんて、小学生の頃に観た学園モノでの、あの先生風だし。ツッコミどころ満載な先生だ。
「とりあえず一、二限目は、始業式と新任式。その後は、LHRをやります。そこで教科書買うからな。財布はちゃんと持っていくように。嫌なら預かるぞー」
単調過ぎる。こんな感じで一年間もつのだろうか。
淡々と済んだHR後、響希君、僚君、吾妻さんと一緒に、体育館に移動する。
「副担任の先生さ、名前言ってなくない?」
「それ、私も思った。国語担当って言ってたけど、最後方ってさ……」
「あの某学園ドラマだったよね。リアタイで観てたよ。僕」
「ツッコミたかったけど、眠いのと疲れで、そんな気にならなかった。漣には後で奢って貰いたい!」
やはり話題は、副担任の先生になってしまう。
これから始業式と新任式。どんな先生が来るのか、担任の先生は誰なのか、気になるところ。
「担任がまともな先生であることを祈るしかないな。始業式、寝てて良いか?」
「話聞くだけだし、良いんじゃない? 僕も眠いけど」
「なんか、舜も笹本さんも、今頃はこんな感じなんだと、想像しちゃう」
「だね。二人とも、今夜はちゃんと寝なよ?」
そんなこんなで、始業式が始まった。二、三年生と先生だけで。
話を聞いているだけで時間が過ぎていき、気づいた時には、新任式が始まっていた。
「えー、四条中央高校から来ました。橘和彦です。担当教科は数学で、二年生の五組、六組を担当します。また、二年五組の担任となりますので、よろしくお願いします」
この人が担任の先生なんだ~。へぇ。若い先生みたい。
周りの女の子たちは、皆キャーキャーしているけれど、それよりもなんだか、あの先生から、不思議な気を感じる。
橘先生の前後の先生たちからは、何も感じなかったから、私の気のせいなのだろうか。
***
「ねぇ、りんちゃん」
「何? どうしたの?」
新任式が終わり、教室へ戻る際に、僚君が話し掛けてきた。
「僕さ、橘先生だっけ? 不思議な気を感じたんだ」
「えっ、僚君も?」
「もしかして、りんちゃんも?」
「うん。妖みたいな気配だったよね」
「半妖かな? だとすると、納得出来る」
半妖。妖と人間の混血。一度、半妖の人のお孫さんに会ったことがある。もし、担任の橘先生が半妖だとしたら、私たちはどう接すれば良いのだろう。
「どうしたの? 雪村さん、花里。月島は、欠伸してるけど」
「吾妻さん、あのね。橘先生のことなんだけど……」
吾妻さん以外に知られてはいけない情報。まだ確証がないし、私たちのことを知っている人にだけ伝えたい。
「半妖? あの先生が?」
「うん。まだ確証はないけどね。気配が、妖みたいなの」
「もしそうなら、現代に半妖がいることになるよね。アニメでしか見たことなかったけど、面白そう」
いつか橘先生と話せる日が来たら、聞いても良いのだろうか。