第弐拾玖話 伍
乗り継ぎの電車に乗って十分。最寄り駅に到着。
改札を出て駅から出ると、桃麻は開口一番。
「着いた~! 乗り継ぎがスムーズに済むことって、あるんだな!」
「桃麻氏……。良かったね。初めての乗り継ぎ成功おめでとう」
「笹本が乗り継ぎに成功したとは」
「それは、華鈴が桃麻氏の手を繋いでいたから。だろうな」
祝福の言葉を浴びて、ご機嫌になっている桃麻は、我先にと先陣を切って目的地である、《ガーデン&ふれあいパーク キュアライフ》に向かって歩き出した。
「ご機嫌だね、笹本さん」
「不機嫌よりは良いかな。帰りも手を繋がなきゃ」
「ラブラブだね~! お二人さん。私達もやろうかな。私が響希君をエスコートするの!」
ここでふと、何やら気になることが。私だけが感じているのか、響希君や僚君は無反応だし、須崎さんは平然としている。
私の勘違いかもしれない。
だけど、何故だか私たちが今いるここは、不思議な妖気が漂っている。
「雪村さん? どうしたの? 皆行っちゃう」
「えっと。うん」
歩き出した私は、この事を伝えるべきか否か。
後ろ髪引かれる思いで、皆についていく。
「白牙、召来」
何かがおかしいから、何かが起きる前に、私の式神である白牙を呼び出す。
私の声に気づいた皆は、何事かと立ち止まって私を見つめている。
『ふぁあ。よく寝た……。この妖気、何?』
「白牙はこの妖気祓える?」
「やっぱり、妖気だったんだね。りんちゃん」
「うっすら漂ってるから、下級の妖がいるんだと思った。念のために黒牙を呼ぶ」
「斑牙も呼ぶ? 何か分かるかも」
そう言って響希君と僚君も、それぞれの式神を呼び出した。
『何だ、この妖気は』
『これはこれは。懐かしい』
僚君の式神、斑牙はこの妖気の主を知っている様子。
須崎さんの身体が私たちの式神に反応してしまってうずくまった所を、桃麻をはじめ、吾妻さんと高坂先輩で介抱することに。
「斑牙はこの妖気の主を知ってるの?」
『ええ。昔馴染みとでも言いましょうか。この辺り一帯を治めている、土地神なのです』
私の問いかけに、斑牙は話を続ける。
『名は、音に築くと書いて音築。呪いの使い手なのです。風になびく長く艶やかな黒髪は、多くの妖を虜にしていたほど』
「何故、土地神の妖気がこんなにも薄いんだ?」
『自らの妖気を使った、結界でしょう。呪いの中には、このような類いのものも存在しますし』
「結界ってことは、何者かの侵入を防いでる? 僕たちなら、気配で多少は分かるけど」
『斑牙姐さん。風がおかしいよ』
『妖も見かけない。下級の者ですら見かけないなど、あり得ない』
深く考え込む斑牙は、一つの答えを導き出した。
『良からぬ気配が近づいています。風の流れを観ても、妖の姿が見えないにしても、これは虫の知らせでしょう』




