第拾玖話 壱
四月。新潟の桜はもう少し後で、まだ咲いていない。今日は午後から、入学式が行われる。
新二年生である私たちと、新三年生の先輩たちは、午前中で帰れる、嬉しい日。
教室に入ると、まだ誰も来ていない。
「おはよー。雪村さん」
「おはよう。吾妻さん。席、離れちゃったね」
私の席は、窓際の前から三番目。廊下側の二番目に、吾妻さんの席。一年生の時は、席替えのおかげで隣になったけれど、今は離ればなれ。
「席替えを待つしかないか。月島と花里は、まだ来てないの?」
「うん。まだみたい」
私の席まで来てくれて、二人でお喋り。一年生の頃と変わらない、私の日常。
「おっはよ~。りんちゃん、吾妻さん。相変わらず、早いね」
「おっはー。今日は、眠いから寝てて良いよな?」
しばらくして、響希君と僚君が教室へ入ってきた。
「半日の辛抱でしょ。月島」
「響希君、ゲームでもしてた?」
「まぁ、そんなとこ。男子会メンバーで優勝を目指した」
「昨日は激戦だったもんね。いやー、僕は疲れたよ。桃麻氏と舜氏も、疲れてるんじゃないかな」
吾妻さんは呆れたと言わんばかりの表情で、響希君を見ている。
「そういえば、昨日の夕方頃かな。吾妻さん、葛書店にいなかった? 僕、見かけたような気がするんだけど」
「うん。行った。先月発売されたコミックを買いにね」
「やっぱり、吾妻さんだったんだね」
「発売日を忘れてて、予約してなかったから、焦ったよ。まさか見られていたとは」
そんなことを話していると、クラスメイトが二人、教室に入ってきた。
「あ、もういる。今年からよろしく。俺、青柳真代っていいます」
「ちょっと待て。真代」
「良いじゃん。挨拶くらい」
「困惑してるだろ。あ、俺は平坂漣。まぁ、響希と僚とは同中だったから、俺たちのこと知ってるだろうけど」
私とあまり身長が変わらない子が青柳君で、響希君より少し身長が高い子が平坂君。
「まっしーと、れんれんは一年の時、何組だった? 僕たちと全然絡みなかったよね」
「俺たち二組だった。また真代の世話係かと思うと、ため息しか出ない」
「俺たちは真代に関しては、ノータッチでいくわ。漣、任せた」
「酷くないか。響希」
「俺は俺で忙しいからな」
同じ中学の人と話せるのは、なんだか羨ましい。私の中学からは、私以外誰もいないから、微笑ましい光景だ。
「どうせ、妖怪の世話だろ?」
「世話じゃなくて依頼だ。分かるか? い、ら、い!」
「分かった分かった。ところで、めっちゃ可愛いじゃん! 二人とも、連絡先とか聞いても良い?」
「れんれん、やめな。この二人、違う高校に彼氏いるから。それと、その彼氏たちと僕たち仲良いから」
「残念だったな。漣」
「彼女のいない響希に言われてもな~」
絡みがないと、知らないこともある。クラスが違うと、どうしても知ることがない。
「俺、彼女いるぞ」
「マジで?! いや、嘘は言わなくて良い。本当だと言うなら、証拠を見せて貰おうか」
「仕方ねぇな。ほら」
ポケットからスマホを取り出し、高坂先輩と撮ったであろう、画像を見せている。
しかも少し、自慢気に。
「えっ、この人って、卒業した先輩じゃん。めっちゃ可愛い先輩! 可愛いってよりは美人!」
「どーよ? 文句あるか?」
「無い! けど、響希に彼女が出来て、俺に出来ないのは悔しい!」
「ところでさ、れんれん。まっしーは何処? 居ないけど?」
えっ? と辺りを見渡す平坂君。そこに、青柳君がいないことを理解する。
「また何処かに行きやがった! 響希! お前も手伝え!」
「はぁ!? なんで俺まで! うぉあ!」
平坂君は響希君の手を無理矢理取り、青柳君を探しに出ていった。
「賑やかなクラスになりそうだね」
「なんだか、疲れそう」
「アハハ。二人ともお菓子食べる? 僕、買ってきたんだ」