第弐拾捌話 壱
あの悪寒は、家に着くまでに消えていた。三日経った今日は少し楽。
暑さに少しヤられてしまったのだろう。
だけど。
「ディナー、断るのダメかな?」
『お父上との、ご会食なのでしょう? 久しぶりの再会なのですし、お話してきては、どうです?』
「あの人と話すことなんて、何もないよ」
『フフフ。反抗期ですね』
これから、父とのディナーが、コタニホテルにて開催される。
父の秘書さんがいつも車で、迎えに来てくれるけれど、あの人が自ら運転して、迎えに来てくれた事は、一度もない。
『私は、霞ヶ森にて、夏夕祭の準備がありますので、僚殿がお出掛けされた後から、留守にします』
「夏夕祭って、妖のお祭りだっけ?」
『そうです。霞ヶ森の妖のみが参加出来る、霞ヶ森のお祭りなのです』
妖のみのお祭り。何故だか、魅力的に聞こえてしまう。
準備なら、僕も行っても良いよね?
「それの準備なら、僕も行きたいな。妖だけのお祭り、こっそり参加も……」
『僚殿。それはいけませんよ。準備も妖のみです。お父上とのご会食を、楽しんで来てください』
「行きたくないなぁ」
準備もダメか。完全妖制のお祭りなんて、興味しかないじゃん!
ピンポーン。ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴り、僕は玄関へと向かった。
ドアを開け、相手を確認する。
「はーい」
「こんばんは、僚君。お久しぶりですね」
「こんばんは。竹中さん。お久しぶりです」
父の秘書、竹中さん。年齢は確か、三十歳になったくらい。
高身長でスタイルも良くて、更には完璧過ぎるくらい、仕事が出来る。
学生時代はサッカーをやっていて、ポジションはディフェンダーだったとか。
「お元気そうで、何よりです。先生がお待ちです。行きましょう」
「竹中さんに言われると、断れないのが悔しいです」
「そうですか?」
「スマホと財布を持ってきます。少し待っててください」
「分かりました。車に戻ってますね」
ドアを閉め、スマホと財布を取りに、リビングへ。
斑牙に後を任せて、僕は出掛けよう。
『お迎えでしたか?』
「うん。鍵は掛けて行くから、斑牙が出掛けるまで、後を任せるね」
『はい。ゆっくり楽しんで来てください』
スマホと財布を持ち、家を出た。
家の近くの広い所に、黒い車が停まっていて、おそらくアレだろう。外で竹中さんがまっている。
「お待たせしました」
「どうぞ、お乗りください」
さりげなくドアを開けてくれる竹中さんは、雇い主の息子にまで優しい。
竹中さんが運転席に座ったところで、話し掛ける。
「竹中さんは、時差ボケしないタイプですか?」
「しますよ。今のイギリスは、サマータイム中なので、ワケが分からない感じです」
「それを聞いて、安心しました」
不思議そうな竹中さんだけど、僕からしてみれば、何でも完璧な竹中さんの、そんな一面を知れたことが、何だか嬉しい。




