第弐拾漆話 伍
電車は、もうすぐやって来る。
空いているなら、斑牙も一緒に座れるけれど、それは神のみぞ知ること。
ホームには何人かいて、僕は小声で斑牙と話す。
『先程お話しされていた方は、妖気質の方でしたね。かなり強く、妖気を感じていらっしゃる』
「妖と会うと、体調を崩しちゃうけどね」
舜氏は、妖眼の僕たちのように、完全に妖を見ることが出来ない、妖気質の人間。
妖の姿を影として捉えるらしい。それに、副反応として、体調を崩すのが定石。
『あの方はもうじき、妖眼の力を手に入れますよ』
「それ本当?」
『はい。間違いありません』
舜氏も妖眼の力を手に入れる。これを舜氏に伝えたら、どんな反応をするかな。
喜んでくれると良いけど、そうじゃなかったら……。
『楽しみですね、電車』
「あんまり騒がないでね。あと、電車内での会話は、控えよう」
『分かりました』
アナウンスがあり、電車がホームに入ってきた。
停まった車両は、見た感じ、空いている。
「少し待っててね。降りる人が先だから」
『はい』
乗り込むと、まばらに座っていて、斑牙が座っていても、大丈夫だろう。
ここから八駅。乗り換えが、五駅目の駅だから、しばらくは寝ていたい。
発車した電車の揺れが、睡魔を呼び寄せていく。
『僚殿』
「ん~?」
『景色が流れていきますよ』
「うん。そうだね」
『青空を流れる、雲よりも速いです』
「そうだね」
眠たい。乗り換えまでの間、僕は寝ていたいのに、斑牙は電車に大興奮。
「斑牙。僕は眠いから、寝てるね」
『そうですか。分かりました』
理解力のある、式神で良かった。これで、乗り換え駅までゆっくり眠れる。
***
ミサカは、片浜駅のすぐ側の山に住む、小さな山神。
妖も人間もいない地で、一人で暮らしている。
僕の祖父と大叔母が、昔住んでいたのが、片浜の地で、二人と知り合いらしい。
それもあって、小さい頃に祖父から、ミサカの話を聞いていた。
一年前に知り合った僕は、ミサカのことが気がかりで、時々こうして、ミサカに会いに行く。
春に、ミサカととある約束をした。
『僚様は、ご存知ですか? 青い虹の話を』
「青い虹?」
『虹は通常、七色ですよね。稀に、青一色の虹が架かるとのことです。その虹を見た者には、幸運が舞い降りると、とある妖が言っていました』
「そんな虹があるの? 僕も見てみたいな」
『私もです』
その日以来、僕は雨上がりの空を、見上げるようにしている。
『僚殿。起きてください』
斑牙の声で、目を開けると、停車しているのは、乗り換えの駅だった。




