表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅蓮荘奇譚 弐  作者: 天城なぎさ
第弐拾漆話 妖と暮らす
71/95

第弐拾漆話 参

「お、いたいた」


 不意に声が聞こえて、思わず辺りを見渡す。すると、階段から、響希が降りてきた。


「おは」


 まだ眠たそうな様子なのは、いつものこと。朝早くに訪ねて来るのは、何か用があるのだろう。


「おはよう、響希。何か用?」

「母から、おすそわけ。キュウリの一本漬けだけど」

「ありがとう! 響希のお母さん、上手に漬けるよね」

「夏はキュウリのオンパレードだから、まだまだ持ってくる」

「やった! いつも貰ってばかりで、申し訳ない」


 家が近いおかげで、響希の家から色々とおすそわけを貰っている。

 月島家が無かったら、僕は今頃、飢え死にしていると言っても、過言ではない。


(つかさ)殿の、おやつ代わりになりますね』

「夏のおやつは、キュウリの一本漬けでしょ?」


 洗い物を終えた斑牙が、僕たちの所にやって来た。剪定バサミを持って、麦わら帽子を被っている。


(つかさ)が食べ過ぎないように、斑牙、見張っててくれないか?」

『そうですね。お腹をこわしてしまいますし』

「大丈夫だよ!?」


 夏のおやつは、アイスよりもキュウリの一本漬け! 

 最後の晩餐にも、これだけは絶対に食べたい。


「何か作業するところだったか?」

「バラを、数本摘もうと思ってね。これから、ミサカの所に行こうと思っているんだ」

「そうだったのか。じゃあ、俺はこれで」

「ありがとね。お礼、今度するから」


 響希を見送って、貰ったキュウリの一本漬けを、冷蔵庫にしまう。また降りて、一階の裏口から出るとすぐ。斑牙と一緒に造った、広めの花壇がある。


「今、何時だっけ?」

『そろそろ、九時になる頃ですよ』

「じゃあ、早く摘んで、九時半の電車で行こう」

『電車とやらには、乗ってみたいのです。人間の造り出した、文明の利器。面白そうです』

「いつもミサカの所に行く時は、斑牙を呼んでないからね。でも、休日の電車は混み合うよ。妖が見えない人たちが大勢いて、斑牙が潰されちゃう」

『どどど、どうしましょう!』


 斑牙は、昔から人間に興味があるらしい。妖犬になる前には、人間に恋をしていたとか、そんなことを聞いた。


『人間に、生まれたかった。(つかさ)殿と暮らして、そう思うのです』

「人間は大変なだけだよ。時間に縛られて、やらなきゃいけない事も、沢山あるし」

『そうなのですか? (わたくし)が思うに、人間も楽しそうなのです』

「そうかな? 僕は妖の方が良かったよ。自由だし、時間がゆっくりだし」


 しばらく斑牙は、黙ってしまった。どうしたのかと斑牙を見やると、斑牙はこちらを向いて一言。


『お互い、生まれた種族を、間違えましたね』


 この一言に返す言葉は、存在するのだろうか。

 僕は人間で、斑牙は野犬からの妖。


 でも、斑牙の言葉を、理解出来る。


「そうかもね」


 ただ、一言。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ