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紅蓮荘奇譚 弐  作者: 天城なぎさ
第弐拾陸話 徒然
68/95

第弐拾陸話 結

 海の綺麗な場所に、キョウカ様は居るらしい。

 良いなぁ。海、俺も行きたい。


『響希が受け取れ。キョウカ殿の一件は、響希が受けた依頼だったんだろ?』

「少しだけ、受け取るよ。後は小さき友人たちに、渡してほしい」

『分かった。欲しい貝殻を選べ。残りは、小さき者たちに渡す』


 巻き貝、二枚貝に、これは何だ? 白くて、木の枝の先端みたいなヤツ?


「キノカサ。これ、何か分かるか?」

『珊瑚だな。待て。キョウカ殿、まさか琉球の地に!?』

「琉球って、沖縄だろ!? えっ、こんな短期間に、沖縄!?」

『凄まじいな。キョウカ殿』


 確かに、沖縄の海は美しく綺麗らしい。美穂さんの受け売りでしか、情報が無い事が、なんだか悔やまれる。


「キノカサは、行ったことあるか?」

『琉球には、王朝が栄えていた頃にな』

「どうだった?」

『賑やかな印象だ。大陸からの生地、食物までもが、人々を活気づけていた』

「異国情緒ある場所か」

『妖も人々に混じって、どんちゃん騒ぎだ。キジムナーと呼ばれる妖がいるんだ。守り神として、人々から崇められている』


 修学旅行前に、教えてくれない情報が聞けるのは、ありがたい。

 妖と交流があるからこそ聞ける話は、貴重だ。


「俺たち、冬に沖縄に行くんだ」

『ほほぅ。何だ? 旅にでも行くのか?』

「そうだな。学校の旅行さ」

『キョウカ殿に、会えるかもしれんな』

「あ、そうか。沖縄に滞在しているなら、キョウカ様に会えるのか!」


 大事な事じゃん! 沖縄に滞在したままなら、キョウカ様に会える!


(つかさ)と華鈴には、内緒にしようか」

『キョウカ殿が、琉球にいるとは限らない。奄美以北の可能性もある。ただ立ち寄っただけとかな』

「どちらにせよ、内緒にしてた方が、落ち込ませないか」


 ***


 霞ヶ森を抜け、国道を歩いていると、何処からかコーヒーの香りが漂ってきた。

 帰ってコーヒーブレイクでもしよう。


「あれ? 響希じゃん。今日は早いね」

「ん? 日向か。お前こそ早くね?」


 背後から声を掛けられ、振り返ると、弟の日向も下校中。こんなこと滅多にないから、話ながら帰る。


「受験生舐めないで。土曜日に何があるか、知ってるでしょ?」

「あー、あれか。学力テスト!」

「そう。面倒だけど、受けないといけないヤツ」

「英語のさ、Ms(ミス).キャシー元気?」

「葛西先生なら、先月から産休に入ったよ」

「えっ!? 結婚したん!?」

「去年の夏休み前にね。大学生の頃から付き合ってたらしいよ」


 中学時代の先生の結婚と()()()()を、まさか弟から聞くことになるとは、思わなかった。


「ショックだわ……」

「響希にだって、彼女いるんでしょ。落ち込む必要ないじゃん」

「Ms.キャシーだぞ。美人で若くて、俺の初恋だと言うのに!」

「年上好きなの?」

「否定も肯定もしない。ただ。俺の初恋を、見ず知らずの、何処の馬の骨とも分からない、男に取られたのかと思うと」

「はいはい。分かったから」


 うるさい兄貴は仕事でいないし、帰ったら優雅にコーヒーブレイクタイムが待っている。


「コーヒーブレイクするけど、日向はどうする?」

「飲みたい。新しい豆買ってたよね」

「少し拝借するか」

「サイフォンで淹れたやつ、飲みたいな。いつもドリップばかりで、飽きた」

「変わらないだろ。同じ豆なんだから、味なんて」

「そうかもだけど、気持ちは変わるでしょ」

「それは確かに」


 まだ太陽が高い、夏の日。この後の予定なんて何もない日には、コーヒーで一息つく。

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