第弐拾陸話 陸
「それにしても、暇だな」
「暇だね。ね、僚君」
「僕はこれから、お肉屋さんに行って、揚げ物をいくつか買う予定」
スマホを確認すれば、彼是二時間。やることないし、そろそろ帰るか。
「んじゃ、俺は帰る」
「居ても、依頼は来ないよね。それじゃあ、私も」
「二人とも帰るなら、僕も帰る!」
帰ったところで、何かやるわけでもない。唐揚げ食いたいな。作るか。いや、でも、確か今日の夕飯は、餃子。
「響希? 帰らないの?」
「ん? あ、あぁ」
空になったペットボトルと鞄を手に、俺は僚と華鈴と一緒に、水の間を出た。
『響希』
玄関で靴を履いていると、不意に俺を呼ぶ声。この声はキノカサだ。振り向くと、何か紙袋を手にしている。
「響希、先行くよ。じゃあ、また明日」
「また明日ね、響希君」
僚と華鈴が先に玄関を出ていき、俺はキノカサと話す。
『豆菓子だ。買い出しのついでに買った』
「ありがとう。キノカサ」
『悩みは解決したのか?』
「悩み?」
『語らずとも、顔を見れば分かる。何か悩んでいただろう?』
「あぁ。あれなら、もう大丈夫だ」
その時。玄関の扉が勢いよく開き、驚いてしまった俺は、何を思ったのか、キノカサの背中に隠れてしまった。
『飛脚の妖じゃないか。響希、驚き過ぎだ』
「飛脚? この時代に?」
玄関に入ってきた奴は、時代劇に出てくるような、飛脚そのもの。唯一違うとするなら、耳が妖精のように尖っている。
『はい。キョウカ殿より、響希殿への贈り物です』
「キョウカ様から?」
『そうです。響希殿は、この紅蓮荘に来られる人間だと聞いて、お届けに来ました』
「ありがとう。確かに受け取りました」
『それでは。またよろしく』
出ていった飛脚の妖。
手渡された荷物は、朴葉で包まれ、すげで縛られている物。
「何だろうな」
『開けてみるか?』
「そうだな」
玄関先で開封してみると、綺麗な貝殻が幾つかと、手紙が一通入っていた。
「手紙みたいだ」
『ほほぅ。読めるか? 恐らく、妖の字で書かれている』
手紙を読もうと開いてみると、小さな子どもの落書きかと思ってしまうほどの、乱雑な書。
「これが、手紙?」
『だから言っただろう。妖の字で書かれているんだ。読めないだろ?』
「キノカサ、読んでくれないか?」
『貸してみろ』
キノカサに読んでもらわなければ、俺はキョウカ様の手紙の内容を、知ることが出来ない。
『読むぞ』
響希様、シキ殿。そして、小さき友人たちと、霞ヶ森に暮らす、妖の皆様。夏の日差しが強くなるこの頃、如何お過ごしでしょうか。
この度は、私のわがままに、皆様を翻弄させてしまいました。申し訳ありません。
現在の居場所を、教えることは出来ませんが、海の綺麗な場所におります。この地の妖とも仲良くなり、私の見聞は広がっていきます。
もうしばらく、このままでいさせて下さい。
響希様へのお礼がまだでしたね。この度は、私のわがままに付き合わせてしまい、申し訳ありません。共に観た蛍は、絶対に忘れません。また一緒に観たいですね。
長くなってしまいました。皆様、どうかお元気で。




