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紅蓮荘奇譚 弐  作者: 天城なぎさ
第弐拾陸話 徒然
66/95

第弐拾陸話 伍

 今の俺たちは、人生の岐路に立たされている。あと一年なんて、そんな悠長なこと、言っていられないんだ。


「吾妻さんは、短大。桃麻は、専門学校。それなのに私は……」

「落ち込まないで、りんちゃん。小さい頃の夢は、何だった?」

「小さい頃は、パン屋さんに憧れてた」

「可愛いな。華鈴」

「中学生の時に、色々調べてみたけど、かなりお金が掛かるし、資格もいくつか取らなきゃで、諦めたの」

「りんちゃんは、高卒にするの? それとも進学して、大学とか短大とか、もしくは専門学校?」

「高卒にしたい。この辺りで就職になるのかな」


 この辺りの求人が、どれ程なのかは、俺は知らない。

 高卒向けの求人を、どれだけの企業が出しているんだろう。


「そういえば。姉貴と兄貴が貰って来てた、求人票の中に、イナリ書店の求人あったな」

「それって、正社員?」

「そうだったはず。いや、そうだな。正社員のモノしか貰ってなかった」

「書店員かぁ。書店の空気? あれ、好きなの。そっか。書店員ね」


 お、これは道が拓けたか? 華鈴の悩みが軽くなったなら、それで良い。


「来年の求人に、イナリ書店があると良いね」

「うん。なんか、スッキリした。ありがとう。二人とも」

「いえいえ~。お役にたてて、光栄です」

「もしだったら、去年の求人票、持ってくる。まだあるはずだから」

「ありがとう。響希君」


 紅蓮荘の玄関の方が、騒がしくなってきた。シキが帰って来たんだろう。


『シキ殿。この荷物は、何処へ?』

『その荷物は、台所にお願いします。床下に、そのまま入れて下さい』

『まったく。何で俺様まで、買い出しなんだ』

『決めたでしょう。ボクと一緒に、宴の買い出し担当なのですよ』


 妙月様の声も聞こえたから、何処かで遭遇したんだろうな。


「帰って来たみたいだね。ヒサギ、見つかって良かった」

「何処に行ってたんだろう。短時間で帰って来たから、近くにいたんだろうね。響希、くずきり食べないの? 食べて良い?」

「これから食べる。渡すわけないだろ」


 (つかさ)から、くずきりの皿を死守する。まだ食べていないだけで、渡すわけにはいかない。


「うぅ。響希のケチ!」

「誰がケチだ? 俺の分は俺のモノだろ」

「何処かのガキ大将じゃん!」

「うるせー。(つかさ)は、もう食べたんだろうが!」

「仲良しだね。二人は」

「僕たちは、ただの腐れ縁だからね? 英語で言うとラスティネイルだからね?」

「そうだぞ、華鈴。俺たちは、ラスティネイルだ。ん? ラスティネイル?」


 ラスティネイル? 日本語に訳すと、えーと、ラスティネイル? ネイルは爪だろ? ラスティの意味は、何だ?


「響希君、どうしたの?」

「いや、何でもない。ないけど、ラスティネイルの意味が分からない」

「響希君は聞いたことないの? ラスティネイルはね、『錆びた釘』って意味だよ」

「錆びた釘は、取ることが難しいでしょ。そこから、離れられないとか、腐れ縁みたいな意味があるんだよ。まさか、響希が知らなかったとは」


 ラスティネイルなんて、有名な曲としか知らない。まさかそんな意味があったなんて、誰が想像していただろう。

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