第弐拾陸話 肆
「お待たせ~。はい、響希君のコーラ。僚君のオレンジジュースは、これでもう無いよ」
「ありがとう。りんちゃん」
「サンキュー。華鈴は飲まないのか?」
「うん。この時期、お腹が冷えちゃって大変なんだ。シキが今、温かいお茶を淹れてくれてるの」
お腹の冷えのことは、美穂さんも姉貴も言ってたな。結構大変らしいし、女の子にとっては、この時期は辛いらしい。
『お茶がはいりましたよ』
「ありがとう。シキ」
『ボクは、ヒサギを探してきますね』
「ヒサギ? そういや最近、見かけてないな」
『まったく。夕涼みの宴の準備を、しなければいけないと言うのに。何処に居るのやら』
夕涼みの宴とは、七月の土用を過ぎた頃に、毎年行われる、ただの宴会のこと。霞ヶ森の妖たち、親睦のある妖たちが、朧池の畔に集まって、酒盛りをするのだ。
「時々いなくなるよな」
『そうなんです。昔は、こんなこと無かったのですがね』
それでは。と言い残すと、シキはヒサギを捜しに、何処へやら。
「あのさ。二人とも」
シキがいなくなり、三人だけの空間。不意に華鈴が口を開いた。
「どうしたの? りんちゃん」
「何かあったのか?」
何か深刻な問題でもあったのだろうか。まさか、いじめられてるとか、桃麻氏と別れるとか、そんな話なのかもしれない!
「進路、決めてる?」
進路か。これはもう、悩ましい問題の一つだと、俺は思う。そろそろ、面談が行われる季節だな。
「僕は決めてるよ。専門学校の予定!」
「俺も、専門学校の予定」
「え!? 二人とも進学なの!?」
「まぁな。やりたいことがあるからな」
「そっか。決めてるんだ……」
俺も僚も、進路は決めている。ざっくりとしたビジョンじゃなくて、ちゃんと了解を得た、確定ルート。
「華鈴は、決めてないのか?」
「うん。お母さんは、好きなように決めなさいって、言ってくれてるけど、やりたいことがなくて」
「りんちゃんだと、学校の先生が似合いそうだよね」
「わ、私が!?」
華鈴が先生か。うん。悪くない。良い先生になりそうだ。出来ることなら、俺が教わりたい。
「悪くないと思うぞ? 学校がダメなら、保育園とか塾とかだってある」
「誰かに教えるのは、どうも苦手で。響希君も僚君も、やりたいことがあるんだね」
「響希は、ジュエリーデザイナーだったよね?」
「響希君がジュエリーデザイナー?」
「昔から、見た目の割りに、細かい作業好きだもんね~。ね、響希」
「割りにって何なんだよ。両親の店を継ぐ予定だし、その事はもう報告済みだ」




