第弐拾陸話 参
暑さのせいもあってか、一日があっという間に終わった。
「キョウカ様のことで、皆に話がある」
キョウカ様行方不明の一件は、解決の糸口が見えないでいる。
俺はこれから、霞ヶ森の妖たちに真相を語らなければならない。
「キョウカ様の行方が、分かったの? 響希」
「ああ。行方とまではいかない。キョウカ様がいなくなった理由は知っている」
『本当ですか! それで、キョウカ様は今は、どちらに?』
木の間に集まった、キョウカ様捜索隊の妖たちは、俺の言葉を待っている。小さき友人たちは、いても立ってもいられない様子だ。
「キョウカ様は、旅に出られた。行き先は知らない。ただ、独りになりたいらしい」
『響希殿は、キョウカ様に会われたのですね?』
「会ったよ。キョウカ様は自由になりたい。独りになりたいと、旅に出られたんだ」
『我々も、キョウカ様とともに。キョウカ様のお側に、いよう!』
「やめておけ。キョウカ様は独りになりたいんだ。主の願いを聞いてやって欲しい」
小さき友人たちは、困惑している。それはそうだろうな。いきなり、旅に出たなど、信じられないだろう。
「響希君は、キョウカ様から依頼を受けたの? 旅に出ることを、知ってたってことは」
「キョウカ様が家に来て、しばらく匿ってた。蛍を見た後すぐに、旅に出た」
『キョウカ様が居られぬ今、我々はどうしたら……』
「今まで通りに過ごして欲しい。キョウカ様も、そう言うだろう」
***
キョウカ様の一件が、嵐が過ぎ去ったように、呆気なく終わった。誰にも言えなかった事を、全て吐き出せたお陰で、スッキリしたのと、脱力感が凄い。
「ハァー。終わった」
「響希君、何か飲む? ジュース買ってあるよ」
「台所の床下収納のお陰で、冷蔵庫要らずだよね。ここは。僕のオレンジジュース、まだあるよね?」
「刺激強めのヤツ。何か炭酸強めのヤツある?」
「コーラならあるけど。それでも良い?」
「じゃあ、それで」
「持ってくるね」
華鈴が台所までとりに行ってくれている間、僚と二人きり。
「肘の故障だけじゃなかったでしょ」
「何が?」
「まっしーとれんれんに、伝えたこと。腰はもう大丈夫なの?」
「日常生活には影響はない。時々痛むけど」
「体育の後は、よく腰擦ってるよね」
「サポーターしてても、痛いものは痛い」
僚にはバレていた。俺の場合、肘と腰を痛めている。体育をするにあたって、多少の障害となっていることを。
「でもまぁ。これであの二人から、卓球の勧誘が無くなるだけでも、ありがたい」
「そうだね。僕たちじゃ、あの二人の相手なんてできないし」
「そういう僚だって、色覚異常は続いてたのかよ」
「心因性だからね。時々起きるよ」
「俺たち、ヤバイな。色んな意味で」
「そうかもね。この事は、りんちゃんや吾妻さんには、内緒ね」




