第弐拾陸話 弐
「中一の時。練習試合で、下宮中とやった時があっただろ?」
「夏休み明けすぐのやつ? 響希とつっちーが、ダブルス組んだやつだよね?」
「あの時に、何かがあった。そういうことだよな?」
「あぁ。変な打ち方をしたせいなのか、肘に違和感があったんだ。すぐに治ると思って、ほっといたら、悪化した。中間テストの期間中に、医者に診てもらったら、故障。それで、退部したんだ」
これが、俺が隠していた真実。成長期真っ只中の故障で、未だに違和感がある。
「肘の故障……。成長期真っ只中の故障は、治らない?」
「場合にもよるだろ。ほっといたってことは、もうその時点で……」
「でもそれは、響希であって、つっちーの理由は?」
俺の話は終わり。次は、僚の番だ。
「僕の理由はね、色覚異常が出ちゃったんだ。心因性のモノで、今は落ち着いてる」
「それって、色が区別出来なくなるっていう、アレ?」
「うん。今は大丈夫だけどね」
「無理はさせられない。部活がストレスの原因となってしまえば、また異常が出るかもしれない」
これで分かってくれるだろう。俺たちには、俺たちの理由があるということを。
「それならそうと、退部する時に話してくれれば良かったのに」
「そうだぞ。早くに話してくれれば、俺たちだって」
「同情してほしくなかった。だから僕たちは、二人だけの秘密にしてたんだ」
ずっと隠したくて、隠していた訳じゃない。同情されるのが嫌で、隠していただけ。僚にだけ話せたのは、幼なじみとして側に居てくれたから。
「二人てさ、相棒だよね。友情とか恋人じゃなくて、相棒」
「誰も立ち入ることが出来ない関係だな。恋人以上だろ」
「そうか? そう見えるのか?」
「まぁ、僕たちはいつも一緒だしね」
クラスメイトたちが続々と入ってきて、賑やかになる教室。扇風機の風が、俺の席まで届かなくなる。
「今日の最高気温、三十五度らしいよ」
「まっしー、それ言わないで。暑すぎて溶けそうだよ」
「じゃあ。怖い話でもする?」
「雰囲気は大事だよ。まっしー」
「ジェラート食べに行きたいね。ね、つっちー」
「いいね。土曜日にでも行く?」
「それだと午後だね。部活あるし。二人で行こう!」
俺と漣は蚊帳の外。まぁ、それでも構わない。土曜日は美穂さんとデートだからな。
「ほらー、席に着けー。HR始めるぞー」
今日の橘先生は、どこかダルそう。この暑さじゃ、誰だってそうなるか。
「えーと、今日はご存知の通り、夏休み前の職員会議があります。で、短縮授業ね。早く帰れるから、良かったな」
これは、会議が面倒なだけだな。早く帰れるなら、紅蓮荘に寄って。キョウカ様のことを伝えなきゃだ。
「そうそう、忘れてた。今日から、旧校舎の解体の為、作業車の出入りがあります。気を付けように。はい、終わり」




