第弐拾伍話 結
『先程、響希様がお聞きになりたかった事を、お話します』
「あぁ。はい」
『ただ、自由になりたかったのです。祥一郎と過ごした日々にも、その後の日々にも、小さき友人たちは必ず側にいました。わたくしが出掛ける日も必ず。わたくしに、自由はないのでしょうか? わたくしだけで、過ごす日々は、これからも訪れないの? わたくしは、それが嫌で嫌で、堪らなかった』
キョウカ様の顔を見ずとも、キョウカ様が泣いていることは、はっきりと伝わった。小さき友人たちに、罪はない。だけど、キョウカ様は一人で、過ごしたいと思っていたんだ。
「自由を、手に入れてください。俺は、キョウカ様の言葉を持ち帰り、小さき友人たちと、森の妖たちに伝えます」
『響希様。わたくしは、貴方に恩を返さねばなりません』
「そんな。俺は、ただ依頼を受けただけです。ほら、また一匹飛びましたよ」
いつの間にか、多くの蛍が飛び交っている。いつかのキョウカ様も、愛した人とともに観ていた景色。
「寂しくなります。キョウカ様がいなくなるのは」
『小さき友人たちを、どうかお願いいたします』
「はい。いつか、キョウカ様が戻って来るまで、見守ります」
『何故でしょう。離れたいと願っていましたのに。何故、涙が出てきてしまうのでしょう』
それはきっと、別れるのが辛いからですよ。その言葉を伝えようにも、俺の口からは、何も出てきてはくれなかった。
『儚い光りです。この蛍たちは、もうじき最期を迎えてしまう』
「生きる者の運命です。人間も、いつかは死にゆく」
『祥一郎が亡くなった時、人間に、永遠があったなら良かったのにと、思いました。死とは、神ですら抗えないのですから』
飛び交う蛍が空高く飛び、まるで星のよう。生きる者全てが、儚い存在。それを改めて思い知らされる。
『響希様、ありがとうございました。これで、旅に出られます』
「それは良かった。後の事は、任せてください」
しばらく蛍を観て、キョウカ様はどこかへ行ってしまった。見送った俺は、そろそろ帰らないとヤバい。
「黒牙、召来!」
紙人形をポケットから取り出し、俺の式神、黒牙を呼び出す。特に何の用件もなしに。
『どうした?』
「ただ、なんとなく呼んだだけだ」
『そうか』
「黒牙も、蛍を観たいだろ?」
『夏の風物詩だからな。霞ヶ森でも観れるぞ』
「ここで観る蛍も、良いだろ」
キョウカ様は旅に出られた。これで、依頼は完遂。後始末は明日にでも、するとしよう。
『もう暗い。帰らなくては、いけないだろ?』
「そうだな。帰るか」




