第弐拾伍話 漆
それから数日間、行方不明のキョウカ様に関して、進捗は何もなかった。
『いよいよですね。響希様』
「そうですね。たくさん観れると良いです」
今日は水曜日。放課後になるとすぐに帰宅し、キョウカ様と一緒に、思い出の地に向かう。
「どこまで行くんですか?」
『樽沼の地です』
「それなら、こっちの道の道から行きましょう。霞ヶ森の妖たちが、貴女を探しています」
『ありがとうございます。響希様』
僚や華鈴には申し訳ないが、これは俺が受けた依頼。必ず完遂させる。
「樽沼の、どこですか?」
『小川が流れる場です。祥一郎が云うには、笹川という名の、小川です』
「笹川? もしかして、その辺りは、田んぼがありますよね?」
『そうです。そうです!』
笹川が流れている場所なら、田んぼが一面広がる、虫が多い場所。樽沼までもう少し。だけど、笹川が流れている場所まで、まだまだだ。
「遠い……」
『案外、歩きますね』
「どこかで、休憩しましょう」
『そうですね。休憩出来る場所が、あれば良いのですが』
ここまで来て、妖に見つかってしまっては、元も子もない。妖に見つからない場所で、休憩出来る場所なんて、どこにあるんだ?
「あ、コンビニ!」
『こんび? 響希様、こんびとは一体?』
「簡単に説明すると、商店とでも言いましょう。あそこなら、休憩出来ます。それにこの辺りは、捜索済みなので、誰も来ません」
『では、そのこんびに、参りましょう』
国道を歩いていたおかげで、コンビニに立ち寄れる。店内の奥には椅子もあるし、ゆっくり休んでも問題ない。
『明るい場所ですね。わたくし、初めて来ました』
「ここは、とっても便利な店なんです。何か飲みますか?」
『お構い無く。わたくしは平気です』
「じゃあ、飲み物を買ってくるので、奥の椅子に座っていてください。誰も座っていないので、大丈夫だと思います」
レジも混んでいないし、急いで買ってしまえば、キョウカ様の無事は保証される。
ペットボトルの麦茶を手に取り、レジで会計を済ませ、キョウカ様の元へ。
「お待たせしました」
『ここはなんとも、賑やかですね』
「気にしたことなかったです。言われてみれば、賑やかですね」
キョウカ様は何故、小さき友人たちと離れたがっているのだろう。確執があるわけでもなさそうだし、仲違いしたわけでも、なさそうなんだよな。
「キョウカ様。一つ聞いても良いですか?」
『何でしょうか?』
「何故、小さき友人たちと離れたいのですか?」
『それは、後程。今はまだ、お教え出来ません』
「そうですか」
特に話すこともなく、ペットボトルの麦茶を半分くらい飲み、休憩は終了。
「行きましょう」
『はい』
再び歩きだした俺たちは、先程までとは違い、無言で歩いていく。
道路標識に笹川の地名の見つけたら、あとは国道から農道に向かって歩くだけ。
「もうすぐですよ」
『やっと、ここまで来ました。良かった』
辺りは暗く、念のために持ってきた懐中電灯で、足元を照らす。歩く度に、草影に隠れていた虫たちが飛び交い、なんだか鬱陶しい。
『響希様、向こうに蛍が』
「あ、ホントだ。いますね。ここに」
『はい。良かった。蛍を、観れました』
「でも、まだ一匹だけです。ここは、何匹もいるんでしょう?」
優雅に飛ぶ蛍を見つけた俺たちは、何十匹も飛び交う蛍を観るまで、その農道に佇んでいた。




