第弐拾伍話 陸
翌日。キョウカ様は、二階の突き当たりの部屋で、一夜を過ごした。
これは、俺と日向だけの秘密。キョウカ様を匿っていることは、誰にも知られてはいけない。
「響希、おはよー!」
「朝からテンション高いな。僚」
「高くしてないと、心配なんだよ」
「何かあったのか?」
「昨日、響希は紅蓮荘に来なかったから、知らないと思うけど、キョウカ様がいなくなったんだ」
「キョウカ様がいない? 小さき友人たちは、知らないのか? キョウカ様の行方を」
やはり、大事になっていたか。家に居ると伝えたら、キョウカ様の自由はない。
「シキは、何か聞いてないのか?」
「シキも知らないって。森中の妖たちも、キョウカ様がいなくなった事に、驚いてる」
なるほど。誰にも伝えずに、俺んちに来たわけか。とにかく、キョウカ様の居場所に関しては、黙秘するしかないな。
「おはよー。りんちゃん、キョウカ様の居場所、分かった?」
「おっはー」
「おはよう。二人とも。私の方も、何も分からなかった」
「いなくなったらしいな、キョウカ様」
「そうなの。式神たちも捜索に加わったけど、妖気が森の中だけに残ってて。まだ森の中にいるのかな?」
教室に入っても、キョウカ様の話題。キョウカ様が、小さき友人たちと離れたがっているのは、何か理由があるはず。それが分からないうちに、教える訳にはいかない。
「おはよう。お三方。朝から、盛り上がってるね」
「おはよう、吾妻さん。知り合いの妖が行方不明になってて、その事でね」
「妖が行方不明? 心当たりはないの? いなくなった理由とか、居場所とか」
「それが分かったら、僕たち、すぐに見つけられるよ」
続々と教室にクラスメイトたちが入ってきて、この話は終了。何事もなく、一日が過ぎていくことを、ただ願うばかり。
***
「僕さ、捜索範囲を拡げるべきだと、思うんだよ」
「霞ヶ森近辺で、キョウカ様が行きそうな場所なんて、ある?」
「うーん。行きそうな場所かぁ……。皆目、検討もつかない」
「妖といえど、そんなに遠くには行ってないだろ。俺は俺で探してみる」
昼休みはいつも通りに、視聴覚室で話し合いをする。今回は、キョウカ様が見つからない限り、終わらない。
「そういえば、昨日来なかったね。響希君」
「真代に捕まった。卓球に戻って来てほしいらしい。僚にも、言うってさ」
「僕たち、卓球はもうやらないのに。まっしー、どうしたんだろ?」
「さぁな。今は、キョウカ様の行方の方が、大事だ」
ヤバイな。俺の我慢が限界を向かえる。とにかく、早く終われ。今日という一日!
「今日が、休日だったら良かったのにね。僕たち、キョウカ様探しを、一日中出来たのに」
「まだ金曜日だもんね。あと世界史と英語が待ってる……」
「長いな。一日」




