第弐拾伍話 伍
食器を台所に持っていき、そのまま二階の自室へ。部屋の明かりをつけて、ベッドにダイブ。
『響希様』
「おわあっ!? え、誰?」
いきなり女の人の声が聞こえ、声のする方を見てみると、そこにいたのは、見覚えのある妖。
「キョウカ様? え、どうして俺んちに?」
『紅蓮荘では、相談しづらく。本日、紅蓮荘へ来られなかったのは、響希様でしたので』
「依頼ですか。聞きますよ」
『良かった。すみません。響希様の気配を辿って、この部屋に来てしまいました』
「でも、俺、一回この部屋に来てますよ? その時はいませんよね?」
『一度、お庭の方で待たせて頂きました』
「そうですか。あ、どうぞ、座ってください」
なんだ。そういうことか。納得したところで、紅蓮荘では相談しづらい依頼を聞くとしよう。
「それで、依頼というのは?」
『もうじき、蛍の飛び交う時期になりますよね。霞ヶ森では、多く見られると聞きました』
「そうみたいですね」
『祥一郎と観た場所に、行きたいのです。ですが、小さき友人たちが、付いてきてしまいます。わたくしは、誰にも知られず、一人で蛍を観たいのです』
「なるほど。でもそれは、一人でこっそり出掛ければ、解決しますよ?」
そうだ。そのくらい、キョウカ様だって分かるはず。それなのに、依頼として来るのは、何かあるのか?
『それは、分かっております。本日もそうですし』
「それなら、どうして?」
『しばらく、小さき友人たちと、離れたいのです』
「離れる? 霞ヶ森には帰らないと?」
『はい。ずっと悩んでいました。いつか、小さき友人たちと、離れなければいけないと、考えていました』
「まさかとは思いますが、今日からですか?」
『そうです。小さき友人たちには、何も伝えてはいません。しばらく、旅に出ようと思います。その前に、蛍を観たい』
きっと今頃、霞ヶ森ではキョウカ様の捜索が行われているはず。シキも何も聞いていないだろうし、小さき友人たちは、パニックだろうな。
『響希様。しばらく泊めて頂けますか?』
「俺は問題ありませんけど」
『ありがとうございます。響希様。お庭に、泊めさせて頂きますね』
マジかよ。泊まる気か。外でも良いって言われても、日向が気になるだろうし。それに、台風の影響もあるだろう。
「僕がどうかした? え、あ、さっきの妖さん」
『お邪魔しています』
「いえいえ。ごゆっくり」
「日向、どうした?」
「お風呂空いたから、次いいよ」
いきなり日向が部屋に入ってきて、俺の方がパニックを起こしそうだ。
「聞こえてたけど、この妖さん、泊まるんでしょ?」
「ああ。でも、外にいたら、探しに来た妖に見つかる」
「それなら、突き当たりの部屋は? 二階にあるわけだし、僕たちで匿えるじゃん」
「あそこは埃だらけだろ?」
「掃除すれば良いでしょ。僕、やっとこうか?」
「テスト前だろ。俺がやる」
「でも、妖さんも食事するよね? どうしようか」
『わたくしのことは、お気になさらず。妖は、食事をせずとも、生きられますよ』
これなら、俺と日向だけの秘密として、キョウカ様を匿える。風呂に入る前に、軽く掃除をすれば良い。




