第弐拾伍話 肆
家族の中で、妖が見えるのは、俺と日向だけ。ただし、霞ヶ森に出入りしているのは、俺だけで、妖に知り合いがいるとしても、それは俺だけになる。
「その妖、帰ったのか?」
「どうだろう。でも、また明日になれば、会えるかもしれないって。そう言い残したよ」
「何かあれば、また訪ねて来るか」
そんな会話をしていると、居間に兄貴が入ってきた。
「ひびきぃ。高坂さんを、どうやって口説いたんだよぉ」
「だから、両思いだったって、言ったよな?」
「日向は、何か聞いてるか? 彼女をゲットするための、口説き方」
「知らない。音也兄だって、彼女いるんでしょ?」
「フラれたんだよ。この前」
「それは、御愁傷様」
入ってくるなり、うるさい兄貴。失恋したからって、とばっちりも、いいところだ。
「そこの男ども! ゲームしてないで、少しは手伝いなさい!」
居間の隣の台所から、料理中だった姉貴が、居間へと来るなり、声を荒らげている。
「今日は、姉貴が晩御飯を作ってんの?」
「お母さん、今日は夜勤でしょ。お父さんだって、まだ帰って来ないし」
「姉貴の作る料理は、美味しいから、俺は好き」
「僕も、朔那姉の料理、好き!」
「弟たちは、相変わらず良い子だよね。それに比べて、休みだからって、怠けてる双子の片割れは……」
「うるせー。俺は疲れてんの。しょーがねぇだろ」
両親が仕事でいない、こんな日の月島家の兄弟は、ほぼカオス。こういう時は、姉貴の味方につくのが、賢い選択だ。
「私だって疲れてる。それでも家事してるんだから、少しは協力してよ」
「へいへい。やりますよ。やれば良いんだろ」
「分かればよろしい」
台所から、出来上がったおかずを居間へ運び、ご飯をよそって。晩御飯の準備を手伝う。
今日のメインのおかずは、商店街のお肉屋の、メンチとコロッケ。ほうれん草のごま和えもある。
「姉貴。ソース無くなりそう」
「新しいやつ、そこにない?」
「あ、あった」
晩御飯の準備は完了。さっさと食べて、自室に籠るとするか。
「いただきます」
「響希。ソース取って」
「ん。日向、ゴマが付いてる」
「どこに?」
「唇の右側。そう、そこ」
この時間だけは、兄貴が静かになる時間。家にいる間、この時間だけは落ち着ける、唯一の時間だ。
「ご飯食べたら、順番にお風呂入っちゃって」
「俺が最初だな。ここは、長男として」
「でも、長子は私だけどね」
「生まれたのが、俺より五分早かったからって、長子アピールするな!」
「先に長男アピールしたのはどっち?」
一卵性の双子である、姉貴と兄貴。同じ親から生まれたにも関わらず、性格は全く違う。
「ごちそうさま。俺、部屋にいるから、風呂空いたら教えて」




