第弐拾伍話 参
薄暗くなってきた頃にキノカサと別れ、家路についた俺。街灯の灯りに虫たちが集まっている光景を目にしては、妙月様の怯えた顔が浮かんできてしまう。
「鼠と蛇もいたら、怯えるどころじゃないだろうな」
おっと、いけない。そんなことを、考えてしまう俺がいる。
妙月様が恐れているところを、見たくはない。
そうこうしていると、いつの間にか家の前。玄関の明かりが灯り、居間も明かりが点いている。
「ただいま~」
虚しく響く俺の声。返事なんて、返ってきたためしがない。どうせ、兄貴も弟も、ゲームに夢中なんだろうけど。
ガラガラガラガラ。と、居間の磨りガラスの引き戸が開き、廊下にやってきたのは、二つ上の兄貴。
今日は休みだとかで、上下スウェットで、髪はボサボサ。これが兄貴による、社会人の休日。
「お、響希じゃん。いつもより早くね?」
「呑気にゲームをしている兄貴に、一番言われたくないな」
「ちゃんと働いて金納めてますぅ~。未成年のくせに、生意気だぞ」
「この前、彼女にフラれた奴に、言われたくないね!」
「そういう響希は、彼女いないだろうが!」
「何言ってんの? 兄貴の同級生と付き合ってるけど?」
「またまた~。俺の同級生って、誰のことだ?」
「高校の時に同じクラスだったろ。高坂美穂さんと」
その名前にピンときたようで、兄貴は驚いた表情を向けてきた。
「高坂さんと付き合ってんの? いつから?」
「二月から。両思いだったこともあって、付き合ってる」
「高坂さんって。容姿端麗で、成績優秀な、あの高坂さんだよな?」
「そうだけど?」
「マジかよ。あの高坂さんが、俺ではなく、弟の響希に……。待て。まさかとは思うけど、日向にも彼女がいたりするのか?」
「自分で聞けば? 俺が、知るわけないだろ」
まだ玄関に入っただけ。早く中に入らせろ。俺だってゲームしたいんだよ。
「てか、何しに廊下に出てきたわけ?」
「あ、そうだ。トイレに」
「忘れないだろ。普通」
やっと中に入れた。二階の自室に行き、鞄を置いたら、居間へ。二つ下の弟、日向が、テレビに接続してゲームをしていた。
「あれ? 響希、帰ってくるの早くない? いつも六時過ぎてるじゃん」
「真代に捕まったからな。仕方ないだろ」
「また卓球の話でしょ? 真代君、響希とまたやりたいんだよ。きっと」
「ブランクがある俺が、真代の相手が出来るわけないだろ。てか、テスト勉強はしなくて良いのかよ?」
「今は休憩中。明日からテストとか、嫌になるよ」
「それは、分かる。ただ、高校生になれば、早く帰れるぞ」
「僕も早く高校生になりたいよ。響希みたいに、自由に遊べるじゃん」
「もう少しの辛抱だな」
ゲームに夢中な日向の邪魔はしないように、俺は居間の片隅でスマホでゲーム。
「そういえば、響希の知り合いかな。妖が訪ねて来たよ。綺麗な女の妖」
「俺を? 誰だ、その妖」
「さぁね。僕は、響希と違って、妖に知り合いはいない」




