第弐拾伍話 弐
『そろそろ、蛍の時期だな』
「そうだな。もうそんな時期か」
『霞ヶ森でも、蛍を観れるぞ。たくさんいる』
「そうか。家の辺りにはいないから、観たいな」
『蛍を観たことないのか? 一度も?』
「数える程度は観てる。ただ、家の付近にいないから、別の場所で観たことがある」
空き地で豆菓子を食べながら、キノカサと過ごす放課後。西の空は徐々に、オレンジへと変わっていっている。
『蛍の寿命は短い。子孫を残すために、光るらしいが、その寿命は短い』
「成虫よりも、ヤゴでいる時期が長いらしいな。それに光るのは、オスだけらしい」
『儚いな。妖など、何十年、何百年、何千年も、生き続けるというのに』
「そういう運命だからな。仕方ないさ」
『いつかお前たちも、老いて死にゆく。俺たちはそれでも、この世で生きていくのか』
「まだ先の話だ。俺たちはまだまだ、生き続ける」
この空き地は、人通りの少ない場所にあるおかげで、キノカサと話していても、誰も通らない。不審がる人もいないし、絶好の場所。
『妙月も、蛍が好きな奴だ。また今年も、一緒に観れる』
「黒牙から聞いた。妙月様が亡くなったのは、蛍が飛び交う夜だったとか」
『そうだ。人間の年で、三十の歳だったな』
「妙月様は、その……。自分の墓に行ったことはあるのか?」
『妙月の墓か。ないな。己の墓は、気味が悪いそうだ』
「なんだそれ。今は妖なのに、気味が悪いのか?」
『可笑しな奴だろ?』
こうしてキノカサと笑えるのは、普段からあまりないこと。それも、妙月様のこととなっては、妙月様の意外な一面を知れるチャンス。
「キノカサが、妙月様と主従関係を結んだ理由が、分かる気がする」
『理由など、ただの退屈しのぎだ。他に理由はない』
「退屈しのぎか。妙月様、遊ばれたな」
『妙月の秘密を教えてやろうか。妙月はな、鼠と蛇が怖いらしい。あと、虫だな』
「鼠と蛇と虫が怖いのか? 鬼と妖が平気で?」
『鼠と蛇は、幼い頃に襲われたらしい。虫は、封魔師になってすぐ、遠野の地で踏んでしまって、その感触と残骸に、恐怖心を抱いたとか』
妙月様の、意外な一面の暴露。妙月様本人から聞ける話ではないし、妙月様本人がいる前で、この話はできない。紅蓮荘に行かなくて良かったかもしれないな。
「今日は妙月様と一緒じゃないのか?」
『何処かに出掛けたままだ。珍しく、一人で出掛けた』
「言われてみれば、珍しいな」
『まぁ、もうすぐ帰って来るだろう』
「そうだな。心配する事もないか。それにしても、この豆、旨いな」
『その言葉、何度めだ?』
「分からない。とにかくこの豆が旨い!」




