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紅蓮荘奇譚 弐  作者: 天城なぎさ
第弐拾伍話 蛍火舞う空
54/95

第弐拾伍話 壱

 一学期の期末テストが終わり、もうすぐやって来るのは、夏休み。今日も、(つかさ)と華鈴は、紅蓮荘に行くらしいから、俺も向かうとしよう。

 部活に入っていない俺の放課後は、誰にも邪魔されない。


 夕日までもう少し時間がかかる、七月の放課後。優雅に校門まで歩いていると、いきなり背中に衝撃を受けた。


「おわぁっ!」

「響希、おつ~! 一緒に帰ろ!」

真代(ましろ)かよ。部活あるだろ」

「つっちーは? 一緒じゃないの? つっちーとも一緒に帰りたかった」

「俺の話を聞け!」


 俺に奇襲をかけてきたのは、同中(おなちゅう)で今年からクラスメイトの、青柳(あおやなぎ)真代。卓球部に所属している、将来有望の卓球二世。

 一緒に校門まで歩いて。もとい。家まで歩くことになる。


「今日はサボった! 俺だって、サボりたい時があるんだよ」

「きっと、漣が探してるぞ?」

「れんれんには、伝えてあるよ。響希と帰るって」

「何か用でもあるのか?」


 真代は基本的に卓球バカ。四六時中、卓球のことばかりを考えているような奴だ。その真代が、部活をサボってまで、俺と帰るとは、何か裏がある予感。


「響希さ、また一緒に卓球やらない? 響希の実力、俺もれんれんも、保証するから!」

「またその話か。いい加減、聞き飽きた」

「響希、お願い。つっちーも誘っているんだ。またダブルスやって欲しい」

「そう言われても、俺はやらない。もう二度とだ」

「もしかして、つっちーとのダブルスで何かあった?」


 思い出したくもない。中一の頃の、部活の思い出なんて、何一つ。


(つかさ)は関係ない。俺自身の話だ」

「俺は、響希に何があったのか、何も知らない。急に、何も言わずに、つっちーと一緒に辞めて、二人は何も教えてくれない」

「いつか話す。それで良いか?」

「じゃあ、約束ね。響希。忘れないでよ」


 真代と別れ、家まで早足。ゆっくり歩いていると、思い出したくないことを、思い出してしまいそう。


『響希じゃないか。今日は、紅蓮荘には行かないのか?』

「キノカサか。ん? 紙袋?」

『豆菓子が入っている。響希もどうだ? 旨いぞ』

「旨いのか……。少し貰っても良いか?」


 家路の途中でキノカサと遭遇し、近くの空き地で一休み。


「旨いな。この豆」

『そうだろ。妖横丁で人気の、菓子だ』

「妖横丁? そんなものがあるのか?」

『人間世界の、商店街とやらの、近くにある。妖のみが入れる場だ。妖眼だとしても、入れない』


 空がオレンジに染まるまで、ここに居ようか。キノカサがくれた、豆が旨くて、中々手が止まらない。


『何か悩んでいるのか?』

「どうして、そう思う?」

『顔を見れば分かる。何かあったのか?』

「悩みってほどの事じゃない。友人と少し話しただけさ」


 キノカサに、見透かされてしまいそうだ。ただ思い出したくないことを、思い出してしまいそうなだけ。

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