第弐拾伍話 壱
一学期の期末テストが終わり、もうすぐやって来るのは、夏休み。今日も、僚と華鈴は、紅蓮荘に行くらしいから、俺も向かうとしよう。
部活に入っていない俺の放課後は、誰にも邪魔されない。
夕日までもう少し時間がかかる、七月の放課後。優雅に校門まで歩いていると、いきなり背中に衝撃を受けた。
「おわぁっ!」
「響希、おつ~! 一緒に帰ろ!」
「真代かよ。部活あるだろ」
「つっちーは? 一緒じゃないの? つっちーとも一緒に帰りたかった」
「俺の話を聞け!」
俺に奇襲をかけてきたのは、同中で今年からクラスメイトの、青柳真代。卓球部に所属している、将来有望の卓球二世。
一緒に校門まで歩いて。もとい。家まで歩くことになる。
「今日はサボった! 俺だって、サボりたい時があるんだよ」
「きっと、漣が探してるぞ?」
「れんれんには、伝えてあるよ。響希と帰るって」
「何か用でもあるのか?」
真代は基本的に卓球バカ。四六時中、卓球のことばかりを考えているような奴だ。その真代が、部活をサボってまで、俺と帰るとは、何か裏がある予感。
「響希さ、また一緒に卓球やらない? 響希の実力、俺もれんれんも、保証するから!」
「またその話か。いい加減、聞き飽きた」
「響希、お願い。つっちーも誘っているんだ。またダブルスやって欲しい」
「そう言われても、俺はやらない。もう二度とだ」
「もしかして、つっちーとのダブルスで何かあった?」
思い出したくもない。中一の頃の、部活の思い出なんて、何一つ。
「僚は関係ない。俺自身の話だ」
「俺は、響希に何があったのか、何も知らない。急に、何も言わずに、つっちーと一緒に辞めて、二人は何も教えてくれない」
「いつか話す。それで良いか?」
「じゃあ、約束ね。響希。忘れないでよ」
真代と別れ、家まで早足。ゆっくり歩いていると、思い出したくないことを、思い出してしまいそう。
『響希じゃないか。今日は、紅蓮荘には行かないのか?』
「キノカサか。ん? 紙袋?」
『豆菓子が入っている。響希もどうだ? 旨いぞ』
「旨いのか……。少し貰っても良いか?」
家路の途中でキノカサと遭遇し、近くの空き地で一休み。
「旨いな。この豆」
『そうだろ。妖横丁で人気の、菓子だ』
「妖横丁? そんなものがあるのか?」
『人間世界の、商店街とやらの、近くにある。妖のみが入れる場だ。妖眼だとしても、入れない』
空がオレンジに染まるまで、ここに居ようか。キノカサがくれた、豆が旨くて、中々手が止まらない。
『何か悩んでいるのか?』
「どうして、そう思う?」
『顔を見れば分かる。何かあったのか?』
「悩みってほどの事じゃない。友人と少し話しただけさ」
キノカサに、見透かされてしまいそうだ。ただ思い出したくないことを、思い出してしまいそうなだけ。




