第弐拾肆話 結
「隼人さん、ご馳走さまでした」
「いえいえ。隼人が勝手に付いてきただけだから、お気になさらず」
「紗奈が言わないでよ~。お友達さんに名前を覚えてもらえたなら、本望です」
美術館を出て、駅へと向かう私たち。その道中は、紗奈の彼氏さん、隼人さんも一緒。
「口説いても、彼氏いるから。残念だったね。隼人」
「彼氏いるの!? マジで!?」
「笹本桃麻を知ってるでしょ? 華鈴は、桃麻と付き合ってんの。口説いたこと、言っておこうか?」
「彼氏を売るの!? 紗奈ったら、ヒドイ」
そんな会話をしながら、徒歩五分。駅に着いても、電車はまだ来ない。
「この後、二人はそのまま解散?」
「まだ行くとこがあるの。隼人は帰ってて」
「俺も行きたい! ダメですかね、紗奈さん」
「ダメですね。隼人は、さっさと帰りなさい」
「紗奈に意地悪されたって、笹本に言うから!」
「何処ぞの悪役令嬢でも、そんなこと言わないでしょ。あ、隼人は悪役令嬢に虐められる側か」
二人の世界を壊してはいけないから、私はただの傍観者。そう、ただの傍観者。
***
「疲れたぁ。隼人が来なきゃ、楽だったのに」
「もう少しで巾王神社だよ。紗奈」
電車に乗り、戻って来たら、そのまま巾王神社へ直行。隼人さんは電車で帰って、そのまま。
紗奈はお疲れのようで、いや。私から見れば、ラブラブで、羨ましい限り。
「ほら、着いたよ」
「何処かに座れる?」
「お社の階段でも良い?」
「座れるなら、何処でも」
お社の中から、汰矢の声と聞き慣れない声が聞こえてきた。何か話しているようだけど、内容までは分からない。
「華鈴、どうしたの?」
「えっ、あ、お社の中から、話し声が聞こえたの。知り合いの妖なんだけど、中にもう一人いるみたい」
「もしかして、カルマ様?」
「ちょっと待って。紗奈はここで座ってて」
紗奈のお社の階段に座らせ、私はお社の中へ。
「お邪魔しまーす」
恐る恐る戸を開くと、甘い香りが漂ってきた。汰矢もお相手も、会話をやめ、私に視線を向けている。
『華鈴殿。何用ですかな?』
「汰矢、ごめんね。お話し中だったよね」
『ええ。まぁ。ですが、華鈴殿にも、ご紹介いたしましょう。この方は、かの有名な絵師であり、四条の土地神。カルマ様です』
紹介されたのは、長い銀髪の、青い市松模様の着物の男性。この方が、カルマ様。
『有名だなんて、汰矢殿は大袈裟ですよ』
『何を仰る。素晴らしい絵画を、お描きになっているではありませんか』
私はすぐに、紗奈にカルマ様がいることを伝える。驚いた表情をしている紗奈を、お社の中へ案内。
「何処にいるの?」
「見えない?」
「ここに、カルマ様がいるの?」
公園では見えているはずのカルマ様を、ここでは見えていないらしい。見えるようにするには、姿見の羽織が必要。
今から紅蓮荘に行くとなると、紗奈を一人にすることに。
「白牙、召来」
鞄の中から紙人形を取り出し、白牙を呼び出す。
『どうかした? あれ? カルマ様』
『華鈴殿。そちらの娘は一体……』
「私の友人なの。カルマ様、紗奈と会ったことが、ありますよね?」
『紗奈? あぁ。四条の公園とやら場所で。ボクの絵を、好きだと言っていた……』
白牙に姿見の羽織をお願いして、紗奈をカルマ様の近くに座らせて。
「公園だと、カルマ様を見えたのに、どうしてここでは、見えないの?」
「妖力が強い妖は、人にも依るけど、見える場合があるの。紗奈の場合は、あの公園でカルマ様を見えるの」
「他の妖は見えないけど、それは妖力の影響?」
「そうだと思う」
そんなことを話していると、白牙が羽織を咥えて戻ってきた。
急いでくれたらしく、息切れの様子。
「ありがとう。白牙」
『急いだからね。ボクをもっと、誉めてくれていいよ』
「後でね。カルマ様、この羽織を着て頂けますか?」
『この羽織は、姿見の羽織?』
「そうです。これなら、紗奈もカルマ様を見えるので」
カルマ様が羽織に袖を通すと、紗奈は驚きの表情と声を上げた。いきなりカルマ様が現れて、驚かない方が難しいかな。
「カルマ様」
『久しくしていますね。紗奈』
「ようやく、貴方の名前を知りました」
あとは、カルマ様と紗奈の時間。白牙を紙人形に戻し、汰矢と一緒に、境内の桃の木の様子を見に行く。




