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紅蓮荘奇譚 弐  作者: 天城なぎさ
第弐拾肆話 雨降る日は君想う
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第弐拾肆話 伍

 水気を切って、台所の暖炉の前で乾かす。狐火が灯された暖炉は、暖かくて、心地が良い。


「シキが、用意してくれたのかな」


 靴と靴下を乾かせるように、暖炉の前に、ラックが置いてある。シキが用意してくれたのだろう。


 誰もいない台所。調理道具も、お茶碗と大小様々なお皿も、お箸もカトラリーまでもが揃っている。グラスの類いに湯呑み茶碗。まるで、人間が住んでいたかのような、そんな空間。


 紅蓮荘に来るようになって、一年が経っていても、何も分からない。妖たちも何も語ってくれないし、私たちも知ろうとしていなかった。


 ここは何だろう。霞ヶ森は、妖が住むだけの森なのだろうか。シキは、一体何者?


『終わりましたか? 華鈴』 


 気配に気づかなかった。おかしい。気づいた時には既に、声をかけられていた。台所の入り口の引き戸は、開いたままで、そこには人間姿のシキ。


「あとは乾かすだけだよ。このラック、シキが用意してくれたの?」

『ええ。それなら、靴も乾かせるでしょう』

「ありがとう。ねぇ、シキ。この紅蓮荘って、前に誰か住んでた?」

『それは、どうして?』


 この際だから、聞いてみよう。紅蓮荘のことを。


「調理道具も、食器もあるし、妖が使うとは思えないの。それに、この暖炉だって、昔はオーブンとしても、使えていたはず。コンロだって、私が知っているものとは違う」

『その話は、またいつか。今は知るべきでは、ありませんよ』

「シキ。お願い、答えて」

『お茶が冷めてしまいますよ』


 どうして、答えてくれないんだろう。人間が住んでいたのか否か、ただそれを知りたいだけなのに。

 踵を返し、水の間へと戻っていったシキの背中は、触れてはいけない何かを物語っていた。


「りんちゃんも来たね! 良かったぁ」

「服、濡れてるぞ?」

「大丈夫。すぐに乾くよ」


 水の間では、響希君と(つかさ)君が、シキと一緒にお茶を飲んでいる。私の分も用意されていて、和やかな雰囲気。


「二人は、カルマ様の絵が、どこにあるか知ってる?」

「カルマ様? 誰それ?」

『四条の土地神ですよ。絵師でもあるのです』

「有名なのか?」

『この界隈で、知らぬ妖はいませんよ。今は、この森にいらして、お描きになっています』

「森の中を探せば、見つかるんだよね?」

『ええ。しかし、この雨では、風邪をひいてしまいます。今日はやめなさい』


 シキの言う通りなんだけど、明日は紗奈と美術館に行く約束をしている。


「雨、やまないかな。そうすれば、探しに行けるのに」

『もうしばらくは、降り続きますよ』

「カルマ様の絵、どこにあるの?」

『華鈴が使う部屋の、隣の部屋です』

「隣の部屋ね。ちょっと観てくる」

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