第弐拾肆話 肆
「汰矢から聞いたんだけど。紅蓮荘に、カルマ様の絵があるの?」
『華鈴は、カルマ殿をご存知で?』
「今日、友達の依頼で、カルマ様を探してたの。白牙がカルマ様を知ってて、祠に行ったんだけど、留守だった」
『カルマ殿なら、霞ヶ森にいますよ。この時期、よく来られるのです』
「いるの? 霞ヶ森に?」
『ええ。森の中で描かれるため、姿はあまり見かけませんが』
カルマ様が、すぐ近くにいたなんて。これは完全に無駄足。だけど、紗奈とこうして話せたのは、ある意味、無駄ではないのかな。
『毎年来られるのです。霞ヶ森の空気が好きだとか』
「会えるかな。友達が会いたがってるの」
『森中を探してください。カルマ殿は、あらゆる場でお描きになるはずなので』
カルマ様に会える! 霞ヶ森にいるなら、白牙もそう言ってくれれば良かったのに。
「まずは、お茶をしてから。喉渇いちゃったよ」
『響希も僚も、待っていますしね』
どしゃ降りの影響で、霞ヶ森の遊歩道はぬかるんでいて、スニーカーがあっという間に泥まみれ。
シキは草履だけど、汚れてもお構い無しで、妖の不思議さを感じてしまった。汚れても、妖の姿に戻れば、問題なし?
「靴洗わなきゃ。汚れちゃった。靴下もびしょびしょ」
『乾かすなら、台所に暖炉があります。そこでどうぞ』
「どこかで洗える?」
『洗い物は、井戸があるのでそこで。あ、それでは濡れてしまいますね』
「大丈夫。洗っている時に、何か履き物があると助かる」
『それでしたら、勝手口にサンダルとやらがありますので、どうぞ』
紅蓮荘の中に入ると、響希君と僚君の話し声が聞こえてきた。
私は、玄関で靴と靴下を脱いで、台所へ直行。二人に会うのは、そのあと。
『ボクはお茶を淹れますので、何かあれば呼んでください』
「うん。ありがとう」
勝手口でピンク色のサンダルを履き、雨が降る外へ。井戸までほんの少し距離があるけど、走れば問題ない。それに、井戸には屋根があるから、雨をしのげる。
滑車に縄が通されている、昔ながらの井戸。バケツを底まで下ろし、水を汲めたら引き上げる。
「これって、意外と、大変!」
普段から日常的に、井戸を使わない私たち現代っ子は、この辛さを知ることはない。
でも、ここなら水汲みの辛さを知ることができる。
井戸のすぐ側に置いてある、たらいに水を移し変え、冷たい水に靴と靴下を入れて。
「つ、冷たいぃ。冬場じゃなかっただけ、まだ良いや」
ジャブジャブ。バシャバシャ。中々落ちない汚れ。洗剤を使いたくても、洗濯用の洗剤があるとは思えない。
『華鈴。終わりますか?』
「もう少し。ねぇ、洗濯用の洗剤ある?」
『そんなものはありませんが、石鹸ならありますよ』
「石鹸貸して。この汚れ、中々落ちなくて」
『ちょっと待っててくださいね』
勝手口から顔を覗かせたシキに、石鹸をお願いして、私はとにかく洗い物。
シキが石鹸を探してくれて、井戸まで持ってきてくれた。
『これで良いですか? これしか無いんですけど』
「ありがとう、シキ。もう少ししたら、行くね」




