第弐拾肆話 参
記録的豪雨になるのではないかと思うくらいの、どしゃ降りの雨。土地神、カルマ様を諦め、ダーツも諦め、帰路につく。
「無駄足にさせちゃったね」
「いいよ。私からお願いした事だし。梅雨の時期は仕方ない」
「じゃあ、また明日。駅で待ち合わせだよね」
「うん。今日はありがとう。また明日ね」
紗奈とは駅で別れ、家路につく前に、紅蓮荘にでも寄っていこう。
『華鈴殿ではありませぬか。久方ぶりですな』
「汰矢。久しぶり。ここで、何してるの?」
商店街を歩いていると、烏天狗の汰矢が、正面から歩いてきた。何やら板状の物を抱えている。
『絵師の絵を、買いに。妖のみが立ち入ることの出来る、横丁がありまして。その横丁の一角で、売られているのです』
「妖にも、絵師がいるんだね。どんな絵なの?」
『こちらです。藤の花を描いた絵だそうで』
「綺麗な絵だね」
一面薄紫の花が絵描かれた、水彩画。色合いも情景も、全てに心が惹かれてしまう、そんな絵。
『この絵は、四条の土地神、カルマ様が描かれたもの。いやー。一度でも、お会いしたいものだ』
「これ、カルマ様の絵なの?」
『確か、紅蓮荘にも幾つか、飾られておられるはずでは?』
「紅蓮荘には、これから行くの。探してみるね」
汰矢と別れ、紅蓮荘へと向かう。カルマ様がどんな神様なのかは、会ってみないと分からない。だけど、綺麗な絵を描けるのだから、清らかな心の神様なんだろう。
「汰矢が持ってたあの絵、綺麗だったなぁ」
そんな一人言を呟きながら、商店街を抜け、交差点で信号を待っていると、番傘をさし、白い着物を着た人間姿のシキが、紙袋を手に、商店街からやって来た。
『奇遇ですね。こんな所で会うとは』
「今日は何してたの? こんな雨だし、暇だったでしょ?」
『そうですね。暇でした。響希も僚も、紅蓮荘に来ていますが、暇をもて余していますよ』
「そっか。これから行こうと思ってたの。シキは買い物? 何買ったの?」
『今日は、妖横丁で買い物を。良い茶葉が手に入りました。羊羮も買ったので、お茶でもどうですか?』
「皆でお茶は、久しぶりだね」
シキは妖力が強い為に、妖眼ではない人たちにも、見えてしまうらしい。番傘をさしているシキが珍しいのか、信号待ちの人たちは、こちらに視線を向けてくる。
「シキ、見られてるね」
『見られるような、容姿ではないのですがね』
「いやいや。シキはかなりイケメンだよ?」
『そうなのですか。人間とは、面白いですね』
信号が青に変わり、歩きだした私たち。通行人の人たちも車を運転している人たちも、シキにくぎ付け。
着物を着て、番傘をさしているイケメンは、仕方ないか。




