第弐拾肆話 壱
「華鈴、聞いてる?」
「ふぇ? あ、ごめん。何?」
紗奈の相談を受けるため、喫茶店で会うことになっていた。とある一言で、私の過去を思い出してしまい、心ここにあらず。
「だから。とある人を探してほしいの」
「人を探すの? それなら、私じゃなくてもいいんじゃない?」
「その人、人なのか分からないの。時々、人じゃないような気がして。生気を感じられないし」
「妖ってこと?」
紗奈は見えないはず。そういえば、前にシキが、桃麻に言ってた。『妖力が強いと、見えない人間にも、見えてしまう』と。
「妖なのかな。その人、塾の近くの公園で、屋根付きのベンチの所で、絵を描いているの。いつも、朝はいないけど、放課後の公園にいてね」
「紗奈は、その人と何か話した?」
「少しだけ。私、美術部に入ってるんだけど、その人の絵に、惹かれる何かが、あって。私も絵を描くのが好きだし、話が合って」
「それはいつ頃から?」
「去年かな。このくらいの時期に、初めて会った。一ヶ月くらい前から、見かけなくなったけど」
一ヶ月前から、公園に現れなくなった、妖かもしれない人。会ってみないと、何も出来ない。
「その人ってどんな人? 男? 女?」
「男の人。前髪が目元を隠しているから、どんな顔立ちかは分かんない。黒っぽい着物を着てて、いつも水彩絵具を使って描いてた」
「その公園、案内してもらってもいい? 実際に行ってみないと、何も分からないから」
と、いうわけで、アイスコーヒーを飲み干し、駅で切符を買って、もうすぐ来る電車に乗る。駅前に塾があるけど、紗奈は別の塾に通っているらしい。
「紗奈は、桃麻と同じ高校だったよね?」
「そうだよ。桃麻にお願いして、華鈴の連絡先教えてもらったけど、かなり警戒されてた」
「桃麻らしいね」
「遅いかもしれないけど、ごめんね、華鈴。いっぱい、傷つけたよね」
「気にしてないから、謝らなくていいよ。今は、私と同じように見える人と、仲良くしてるから」
「そっか。同じ人がいるんだ」
土曜日の電車は、少し混んでいた。二人座れるスペースがなく、空くのを待つことに。
「華鈴は、進路決めた?」
「まだ決めてない。どうしたいかも、分からないし」
「お母さんは、翻訳家なんでしょ? 華鈴もそっち方面考えてみたら?」
「したいことが、ないんだよね。紗奈は?」
「私はね、美術の先生になりたい。その為に、美大を目指してるの」
「絵を描くの、好きだったもんね」
三つ目の駅で降り、改札を抜けて駅を出る。この辺りに、公園なんてあったかな?
「こっち。私が通ってる塾、普通の塾と違うの」
紗奈についていくと、細い路地を通ったり、住宅地を通ったり。
「ここが私が通ってる塾ね。で、公園は、道路を挟んだ反対側」
美大を目指す人が通う、専門の塾。その反対側に、公園があって、何人かの子どもたちが遊んでいる。
「信号が青だし、渡ろっか。どう? 華鈴は何か感じる?」
「うーん。何も感じないかな」
「今日はいてくれると、良いんだけど」
横断歩道を渡り、公園に入ってみると、妖気は感じられない。妖のいるような気配もなく、ただ普通の公園。
「このベンチだよね?」
「ええ。いつも、ベンチの端に座ってるの」
入口のすぐ右側。そこに、屋根付きでベンチとテーブルが、置かれている。見たところ、何の変哲もない、ベンチ。
だけど、甘い香りが、ベンチから漂っている。
「何だろう。この香り。甘い香りがする」
「甘い香り? そんなのしないけど。この辺、ケーキ屋も何もないはずだけど」
「紗奈は感じない?」
「何も感じない。でも、あの人から、いつも甘い香りがしてた」
「手がかりになるかも。ちょっと、式神を呼ぶね」
ポケットから紙人形を取り出し、掌に乗せて。白牙を呼ぶ。
「白牙、召来!」
スルリと、地面に落ちた紙人形から、煙が立ち上がり、その場に白牙が現れた。
『ふあぁ。華鈴、何か用?』
「白牙。この甘い香りの人を探してほしいの。もしかしたら、妖かもしれなくて」
『いいよ。ん? 見かけない人がいる』
「私の、小学校と中学校の同級生なの」
『どーきゅーせい? 分かんないけど、友達?』
「そうだよ」




