表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅蓮荘奇譚 弐  作者: 天城なぎさ
第弐拾参話 いつまでも。
45/95

第弐拾参話 結

 予定していた五ヶ所から、三ヶ所へと予定が変わり、お土産も買えて、なんとか晩御飯までに間に合った。


「絆創膏貼って良かった~。痛すぎてもう、歩きたくない」

「晩御飯までゆっくりしていよ」

「ねぇ。華鈴はさ、桃麻のことどう思ってるの?」

「え? 桃麻? 桃麻は友達だよ。幼なじみで、友達」

「付き合わないの?」

「まだ、そういうのは、いいかな」

「そっか。取られないようにね」


 慌ただしい一日が、もうすぐ終わる。他の皆も戻ってきて、一気に部屋は賑やかに。


『賑やかやな』

「うるさかった? ごめんね」

『いいや。かまへんよ。なんだか、昔を思い出してしもて』


 晩御飯の時間になり、今日も今日で、豪華なメニュー。五目釜飯に、焼き魚。京野菜も、ふんだんに使われている。


 晩御飯が終わったら、大女将さんと一緒に、お人形を探すため、防空壕へ。お風呂の順番が最後の方だから、ゆっくり探せる。


「華鈴? どした?」

「えっ、な、何?」

「ボーッとしてたから。疲れた?」

「そうかも」


 晩御飯の時間は、あっという間だったように感じられた。自由時間となり、私は大女将さんがいる、フロントへ。


「大女将さん」

「ほな、行きましょか」


 大女将さんに連れられ、中庭を通って、旅館の裏側へとやって来た。

 街灯の灯りがあったとしても、足元は暗く、大女将さんが持っている懐中電灯だけが頼り。


「この下どす。階段がありますさかい、お気をつけ下さい」

「はい」


 中は真っ暗で、大女将さんが天井を懐中電灯で照らすと、張り巡らされたランプが現れた。


 カチッ。


 ランプが灯り、中は一気に明るい。発泡スチロールの入れ物が幾つか置いてあったり、ブルーシートが置いてあったりと、中で作業をしていることが、分かる。


「かなり奥深くまで、続いているんですね」

「ええ。この奥が、防空壕として、身を隠していた場所なんどす」


 進んできた道には、お人形なんてなかった。それなら、お人形はこの奥かな。

 開けた場所に出ると、とても広く、涼しい。


「あるとしたら、この辺りやと思いますよ」

「ここより奥はないんですね」

「ここで終わりどす」


 ここが、防空壕の最奥部。あの女の子と、いっちゃんが戦時中に身を隠していた場所。


 地面には落ちていない。埋まっているわけでもなさそう。それなら、壁面? 天井はないよね。


 どこだろう。女の子のお人形は、どこにあるの?


「あった。お人形、ありました」

「それは良かった。どこに、ありましたん?」

「壁面に。ここの、窪みに、落としたのではなく、置いていたんです」

「ほな、戻りましょか」


 大女将さんの後ろに付いていき、防空壕から外に出ると、明るかった場所から、暗くなって、目がチカチカしている。


「ありがとうございました。大女将さん」

「いいえ。私は何も」


 部屋に戻り、女の子に確認。


「あなたのお人形は、この市松人形?」

『そや。見つけてくれたんやな。ありがとう』

「いっちゃんに渡すんだよね?」

『お姉さん、私を、ここから連れ出してもらえんやろか』

「どうやって? いっちゃんに会えるの?」

『大女将やさかい。大丈夫やろ』

「大女将!? いっちゃんって、大女将さんなの!?」

『せやで。そんで、憑依させてもらいます。ええか。動かんといてな』


 女の子が私に近づいて、抱きしめられるように、すぅっと、何かが体の中に入ってきた。


『ほな、いっちゃんのとこに、行かせて』


 一階に降りると、大女将さんがフロントうたた寝をしている。起こさなければ、女の子はお人形を渡せない。


『いっちゃん。いっちゃん、起きてぇな。私や。志乃や』


 女の子の声が、私を通じて出ている。目を開けた大女将は、寝ぼけているのか、辺りをキョロキョロ。私を見ると、驚いた表情をしている。


「志乃ちゃん……?」

『そうや。いっちゃんに、渡そう思とった、市松人形。いっちゃん。私は、ここにおるよ。市松人形が、私の代りや』

「志乃ちゃんのお人形さん、もろうてええの?」

『ええで。いっちゃんにあげるための、お人形さんや。またいつか、遊ぼうな』

「志乃ちゃん、ありがとう。でも、私、志乃ちゃんに渡せるもん、何もない」

『ええんや。そろそろ、お別れや。いっちゃん、元気でいてな。私の分まで、長生きしてな。まだ、こっちの世界に来るんやないで』

「待って。志乃ちゃん。サヨナラは嫌や」

『ずっと、見守ってるで。いっちゃん、サヨナラ』


 私の体から、女の子の魂が抜けてると、光の粒となって、空高く昇っていった。笑い声聞こえたのは、空耳ではないんだろう。


「志乃ちゃん……。サヨナラは嫌や」

「二階の、突き当たりの部屋に、女の子はいました。いっちゃんに、お人形を渡すんだと、話してくれましたよ」

「志乃ちゃん。ずっと、この旅館に、いてくれてはったんやね」

「未練があったから、この旅館で、大女将さんを見守っていたんだと思います」


 大女将さんの目から大粒の涙が溢れ、すすり泣く声が、一階に響き渡っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ