第弐拾参話 結
予定していた五ヶ所から、三ヶ所へと予定が変わり、お土産も買えて、なんとか晩御飯までに間に合った。
「絆創膏貼って良かった~。痛すぎてもう、歩きたくない」
「晩御飯までゆっくりしていよ」
「ねぇ。華鈴はさ、桃麻のことどう思ってるの?」
「え? 桃麻? 桃麻は友達だよ。幼なじみで、友達」
「付き合わないの?」
「まだ、そういうのは、いいかな」
「そっか。取られないようにね」
慌ただしい一日が、もうすぐ終わる。他の皆も戻ってきて、一気に部屋は賑やかに。
『賑やかやな』
「うるさかった? ごめんね」
『いいや。かまへんよ。なんだか、昔を思い出してしもて』
晩御飯の時間になり、今日も今日で、豪華なメニュー。五目釜飯に、焼き魚。京野菜も、ふんだんに使われている。
晩御飯が終わったら、大女将さんと一緒に、お人形を探すため、防空壕へ。お風呂の順番が最後の方だから、ゆっくり探せる。
「華鈴? どした?」
「えっ、な、何?」
「ボーッとしてたから。疲れた?」
「そうかも」
晩御飯の時間は、あっという間だったように感じられた。自由時間となり、私は大女将さんがいる、フロントへ。
「大女将さん」
「ほな、行きましょか」
大女将さんに連れられ、中庭を通って、旅館の裏側へとやって来た。
街灯の灯りがあったとしても、足元は暗く、大女将さんが持っている懐中電灯だけが頼り。
「この下どす。階段がありますさかい、お気をつけ下さい」
「はい」
中は真っ暗で、大女将さんが天井を懐中電灯で照らすと、張り巡らされたランプが現れた。
カチッ。
ランプが灯り、中は一気に明るい。発泡スチロールの入れ物が幾つか置いてあったり、ブルーシートが置いてあったりと、中で作業をしていることが、分かる。
「かなり奥深くまで、続いているんですね」
「ええ。この奥が、防空壕として、身を隠していた場所なんどす」
進んできた道には、お人形なんてなかった。それなら、お人形はこの奥かな。
開けた場所に出ると、とても広く、涼しい。
「あるとしたら、この辺りやと思いますよ」
「ここより奥はないんですね」
「ここで終わりどす」
ここが、防空壕の最奥部。あの女の子と、いっちゃんが戦時中に身を隠していた場所。
地面には落ちていない。埋まっているわけでもなさそう。それなら、壁面? 天井はないよね。
どこだろう。女の子のお人形は、どこにあるの?
「あった。お人形、ありました」
「それは良かった。どこに、ありましたん?」
「壁面に。ここの、窪みに、落としたのではなく、置いていたんです」
「ほな、戻りましょか」
大女将さんの後ろに付いていき、防空壕から外に出ると、明るかった場所から、暗くなって、目がチカチカしている。
「ありがとうございました。大女将さん」
「いいえ。私は何も」
部屋に戻り、女の子に確認。
「あなたのお人形は、この市松人形?」
『そや。見つけてくれたんやな。ありがとう』
「いっちゃんに渡すんだよね?」
『お姉さん、私を、ここから連れ出してもらえんやろか』
「どうやって? いっちゃんに会えるの?」
『大女将やさかい。大丈夫やろ』
「大女将!? いっちゃんって、大女将さんなの!?」
『せやで。そんで、憑依させてもらいます。ええか。動かんといてな』
女の子が私に近づいて、抱きしめられるように、すぅっと、何かが体の中に入ってきた。
『ほな、いっちゃんのとこに、行かせて』
一階に降りると、大女将さんがフロントうたた寝をしている。起こさなければ、女の子はお人形を渡せない。
『いっちゃん。いっちゃん、起きてぇな。私や。志乃や』
女の子の声が、私を通じて出ている。目を開けた大女将は、寝ぼけているのか、辺りをキョロキョロ。私を見ると、驚いた表情をしている。
「志乃ちゃん……?」
『そうや。いっちゃんに、渡そう思とった、市松人形。いっちゃん。私は、ここにおるよ。市松人形が、私の代りや』
「志乃ちゃんのお人形さん、もろうてええの?」
『ええで。いっちゃんにあげるための、お人形さんや。またいつか、遊ぼうな』
「志乃ちゃん、ありがとう。でも、私、志乃ちゃんに渡せるもん、何もない」
『ええんや。そろそろ、お別れや。いっちゃん、元気でいてな。私の分まで、長生きしてな。まだ、こっちの世界に来るんやないで』
「待って。志乃ちゃん。サヨナラは嫌や」
『ずっと、見守ってるで。いっちゃん、サヨナラ』
私の体から、女の子の魂が抜けてると、光の粒となって、空高く昇っていった。笑い声聞こえたのは、空耳ではないんだろう。
「志乃ちゃん……。サヨナラは嫌や」
「二階の、突き当たりの部屋に、女の子はいました。いっちゃんに、お人形を渡すんだと、話してくれましたよ」
「志乃ちゃん。ずっと、この旅館に、いてくれてはったんやね」
「未練があったから、この旅館で、大女将さんを見守っていたんだと思います」
大女将さんの目から大粒の涙が溢れ、すすり泣く声が、一階に響き渡っていた。




