第弐拾参話 肆
私たちが泊まる旅館は、ノスタルジックな雰囲気を醸し出している、あまり大きくはない旅館。
二階に上がるための階段は急で、荷物を持ちながらだと、ちょっとキツい。私の部屋は、六人部屋で、階段を上がって廊下を渡った突き当たりの部屋。
「この旅館って、出るらしいよ」
「写真撮ってみる? カメラあるから、この部屋撮ってみようよ」
「ねぇ、華鈴。この部屋には何かいる?」
「え、と、足がない、女の子が」
皆に聞かれたから、見えているものを伝える。襖の前に、女の子が立っていることを。
「マジ? マジのやつ?」
「華鈴。怖がらせないでよ」
「あと、階段を上がってすぐの、男子の部屋からも、何か感じた」
「そこって、大和がいるとこじゃん!」「か、華鈴。ちょっとは手加減して」
怖がらせちゃったかな。私にとっては、日常茶飯事だから、今更怖いとか、そういうことを思わない。
「そろそろ、一階に行かなきゃじゃない?」
「この部屋にいたくないよ~」
「行こ。一階なら、まだ安心だよね? 華鈴」
「一階には、女の人がいたよ」
「華鈴、もうやめて!」
皆を怖がらせてしまった。私は見慣れた景色だけど、皆は違う。ここは京都。多くの戦が行われ、寺社仏閣も多い。
どうしたら良いんだろう。本当のことを言うべきか、『いない』と言うべきか。皆が一階に降りて、私だけが部屋に残って、考えていると。
『あの。お姉さん』
「どうしたの?」
『私のこと、見えるん?』
「見えるよ」
襖の前にいた女の子が、私に話し掛けてきた。急に話し掛けられて、驚きを隠せない。
『私、ずっと、探し物してるんやけどね、お人形さん、見いひんかった?』
「お人形? この部屋にあるの?」
『この部屋には、ないんよ。この旅館の何処かに、あるんやと思う』
「大事なお人形なの?」
『いっちゃんに、渡そうと思っとった。でも、私が引っ越してしもうて。渡せんかった』
「それなら、あなたのお家にあるんじゃないの?」
『戦争が始まって、こっちに戻った。そのお人形も一緒やった』
この子はおそらく、戦争で犠牲になった子。
どんな人形なのかは、分からないけれど、手伝えることがあるなら、協力しなければ。
「お人形を持って、戻ってきたんだよね? それがこの旅館にあるのは、おかしいよ」
『そない言われてもなぁ。この旅館は、防空壕があったんよ。いっちゃんと一緒に、入とったんやから』
「それは、何処? どの辺り?」
『分からへん。私、この部屋から動けんのよ』
「まさか、地縛霊? あなた、ここで亡くなったの?」
『死んだんは、近くの川岸や。防空壕から出て、逃げる時に、通った川岸で。その時、お人形さんを防空壕で落としてしもた』
悲惨としか言い様がない。お人形は防空壕の中だろう。
終戦から七十年が経っている今、その防空壕を探すことが出来るだろうか。
『この旅館中を、探してもらえんやろか。いっちゃんに渡して欲しいんや』
「分かった。任せて。旅館の人に聞いて、探すね」
『ありがとう。お姉さん』




