第弐拾参話 弐
「ねぇ、華鈴ちゃん。裏山に来て」
とある日の昼休み。教室で暇を弄んでいた時のこと。私は、学校の裏山に呼ばれ、数人がそこに。
「どうしたの?」
「あのね、あの銅像にね、霊が、憑いているみたいなの。華鈴ちゃんは見える?」
「こっちを見てる。目が真っ赤な人がいるよ」
銅像から皆の方に視線を移すと、一目散に、皆いなくなってしまった。
「華鈴ちゃんは呪われたよ。その霊を見たから、呪われたんだよ!」
「近づかないで! 呪いが移っちゃう!」
「待って。待ってよ、皆!」
後から聞いた話。銅像に憑いている霊を見た者は、大病を患ったり、大怪我をするという、云われがあるとか。
その年の夏休み前、学校全体でのレクリエーションで、川遊びをしていた際、川石で足を滑らせ、頭を強く打ち、意識不明で病院に運ばれている。
夏休みを丸々入院で過ごしたけれど、桃麻が毎日お見舞いに来てくれて、退屈なんてことは、なかったように思う。
「銅像の呪いなんて、気にしなくていいからな! そんなの、作り話だ!」
「そうだね。そうだよね!」
「売店でプリン買ってきた! 食べるだろ?」
「食べたい! ありがとう、桃麻」
奇跡的に後遺症が残らず、二学期には間に合った。
皆驚いていたけど、『銅像の呪い』のせいで大怪我したと、学校中に広まっていたのは、言うまでもない。
「噂なんて、気にするな。俺がついてる」
「大丈夫。気にしてないよ。本当に、気にしてない」
「まぁ、何かあったら、俺を呼んで」
噂って怖いなって、初めて思い知らされた。呪いは、他の人に移るらしくって、桃麻以外の同級生は、私に近づいてきたり、話しかけてくることは、授業以外では皆無。私から話しかけても、無視されるような感じだった。
「華鈴。一緒に帰ろ」
「うん。でも、桃麻に呪いが移っちゃう」
「俺は大丈夫。今まで大きな怪我も、病気もしたこと無いんだぞ」
「でも、桃麻に何かあったら……」
「そんなの、気にするなって。俺が見ている景色と、華鈴が見ている景色は、違うけど。俺は華鈴が見ている景色が羨ましい。俺も、あやかしを見てみたいんだ!」
桃麻が妖怪好きなのは、小さい頃から知っている。いつか見てみたいと、話していた。
「ほら、行くぞ。遊ぶ時間がなくなる」
「家でゲームする?」
「じゃあ。帰ったら、バトルな!」
小学生の頃は、これ以上の事は何も起きなかったような気がする。卒業する頃、銅像の呪いなんてものは、なかったらしい。ただ銅像の近くにいたあやかしを、私が見ただけ。川で転んだのは、私の不注意から起きてしまったことだった。




