第弐拾弐話 結
森の中には、多くの木々が生い茂っている。
大きなクスの木を探すのは、意外と簡単なように思われた。
「クスの木って、分かりやすい木だよな?」
『巨木なのであろう? そのクスの木とやらは』
「そのはずです。木霊がいるはずなんです」
『木霊がいる、クスの木か。それなら、見つけやすいはずだけどな』
どんなに森の中を歩いても、祠もクスの木も、見つからない。邪気の影響なのか、それとも。
「ん? この白くて小さい妖は?」
『これは、木霊だな。クスの木が近いぞ』
一頭身の白くて丸い、木霊。手足は短くて、歩くというよりは、浮いているような妖。
木霊が案内してくれているみたいで、私たちは、木霊についていく。
『大きなクスの木だな。見てみろ、あんなにたくさん、木霊が』
『ここまで大きいとは。玖琉様は、この近くにいらっしゃる』
辺りを見渡してみても、私たちと木霊以外、誰もいない。
「木霊。玖琉様を見なかった?」
近くにいた木霊に聞いてみると、フワフワと浮いていき、木の上にいる仲間に聞いてくれている。
すると、クククク。カカカカ。と、鳴き声が聞こえてきた。
そして、降りてきてくれた木霊たちが、こっちだと言っているかのように、道案内してくれて。
着いた先にいたのは、きれいな花の模様が描かれた、朱色の着物を着た女妖と、後ろ姿だけでは分からないけれど、狩衣を着た妖。あれはきっと、玖琉様だろう。
湖畔に二人並んで、何やら談笑している。
『玖琉様!』
ツグノハが呼び掛けると、狩衣を着た妖が、こちらに振り向いた。
『ツグノハ。どうされたのですか?』
『玖琉様。穢れが充ち溢れております。どうか、お祓い下さいませ』
『少しだけ、待っててもらえませんか? 水縹様ともう少しだけ』
『しかし! このままでは、妖たちに危害が及びます。この森だって、邪気へと変わってしまっています!』
着物の女妖が、玖琉様に囁くと、玖琉様は慌てた様子。この二人に、何かあったんだろう。
『もう、力が入りません。玖琉様、どうか。どうか、妖たちを助けて下さいませ』
『しかし、水縹様が消えてしまう。最期までともにいたいのですよ』
『ありがとうございました。玖琉様。私、毎年、貴方様にお会い出来る日が、楽しみでした』
その言葉を残し、女妖の身体が光り出した。この光りは、妖が消えてしまう時の光り。柔らかな表情を玖琉様に向け、風と共に光りの粒が浮かび上がっていった。
『水縹様……。またいつか、何処かで』
『玖琉様』
『ツグノハ。申し訳ない。己の欲のままに、この場へ来てしまいました』
『妖たちが傷ついております。一刻も早く、浄めなければ』
『ええ。では、この場で行いましょうか。皆様、上空へ。浄めの波動に触れてはいけません』
白牙の一波と同じなんだろう。私はキノカサに背負われたまま、木々の間から上空へ。響希君は妙月様に憑依される形で上空へ来た。
「水縹様って、豊穣の神様だったのかな?」
『あれ程の力を持つ神でも、信仰者がいなくなれば、消えてしまう。儚いものよ』
『それにしても。響希への憑依は、居心地悪いな。お、あ、す、すまない。響希』
「響希君、怒ってるんですか?」
『そのようだ。お、清浄が始まったぞ』
木々の間から見える、清浄の瞬間。ツグノハが持っていた錫杖を地面に突き刺し、玖琉様とツグノハは、呪文を唱え出した。
錫杖を中心に風が巻き起こり、青白い光りが、森中を包み込んでいく。
『目を塞げ。失明するぞ』
白牙の一波と同じように、私たち人間が見てしまうと、失明するらしい。目を塞ぎ、見ないようにする。
『皆様、終わりましたよ』
玖琉様の声で目を開けると、それまであった邪気は全て消え去っていた。ほんの数秒で消し去るなんて、玖琉様は凄い。
「玖琉様が危ないって、どういう意味だったんだろう?」
『おそらく、邪気へと変わっていたからな。大妖でも出てくると思ったんだろう』
「響希が、そろそろ帰らぬかとの事だ」
夕日が眩しい時間。玖琉様とツグノハとは、その場で別れ、私たちは紅蓮荘に帰ろう。
「なんだか、疲れちゃった」
『ゆっくり休め。妖念感で力が抜けているんだ』
「寝てても良い?」
『紅蓮荘に着いたら、教えてやる』




