第弐拾弐話 伍
『華鈴。元に戻るぞ。憑依していると、腹がへって仕方ない』
紙人形を手に持つと、すーっと妙月様が離れていった。私の魂が体に戻ると、お腹が空いていることを、思いしらされる。
『人間に憑依していると、腹がへる。やはり妖の姿が一番だな』
「すみません。私、お昼食べてないので」
「コンビニがあるから、買いに行くか。キノカサと妙月様は、どうする?」
『俺たちは、食わなくても生きていける。妙月は何か食うか?』
『いや。妖に戻れば腹はへらぬ。それより、キノカサ。少し気になるのだが』
何かを発見したらしい妙月様が、キノカサとともに、どこかへ行ってしまった。その間に、私と響希君はお昼を買いに、近くのコンビニへ。
「意外と残ってたな。カルボナーラが残っててくれて良かった」
「サンドウィッチとおにぎりは、無かったね。玉子サンド、食べたかった」
「お昼過ぎてたし、仕方ない」
「妙月様たち、どこに行ったんだろうね。丘の上に戻っててくれれば、良いけど」
コンビニの外でお昼を食べて、丘の上に戻ってみると、キノカサも妙月様もいない。気になることがあったみたいだけど、どこに行ってしまったんだろう。
「連絡取れないしな」
「妖はスマホなんて、持ってないもんね。戻ってくるのを、気長に待つしかないよ」
「気長に。ねぇ」
「最近は、高坂先輩とデートしてるの?」
何か話題を作らなければ。キノカサと妙月様を待つ時間が、永遠に感じられてしまう。
「美穂さん、バイトがあるから。会えるのなんて、月一か二くらい」
「専門学校生は、大変そうだね」
「でもまぁ、この前の休みに、カラオケ行ったけどな」
どこに行っても、妖が歩いている。空を飛んでいる妖もいるし、斜面に寝転んでいる妖も。
『待たせたようだな』
「どこに行ってたんだ。急がないといけないんだ」
『仕方ないだろ。気になるだの、何だのと』
「その妙月様はどこだ?」
『饅頭売りの妖がいてな。そいつから、饅頭を買っている』
「ねぇ、キノカサ。妖はお金持ってるの?」
『妖には妖の通貨がある。妙月も多少は持っている』
そんな話をしていると、風呂敷の包みを持って、妙月様が戻ってきた。
『すまぬな。ちと、気になることがあったもので』
「お饅頭を買いに?」
『饅頭は、ついでだ。ここから見える、山々の先が、山野の地。その山野の地に、良からぬモノが見えた。黒い靄のようだ』
「まさか、穢れが妖になった?」
『おそらく。玖琉はあの中だろう。あれ程になってしまっては、祓えぬぞ』
私たちには見えない、その光景。山と山の間に、黒い靄が溜まっているらしい。
「山野まで、あとどれくらい?」
『小一時間ってとこだな。かなり距離がある』
「妖と戦うことに、なるのか?」
『分からない。行かなければ、何も分からない』




