第弐拾弐話 肆
『華鈴。覚悟は出来たか?』
「や、やるなら、一思いに!」
妙月様を私の体に憑依させて、空を飛ぶという荒業に出た、キノカサと妙月様。
これは、山野に行く為の交通手段がない、私たちの決断でもある。
『目を瞑り、両手を前に。動くでないぞ』
目を瞑り、両手を前に出すと、妙月様の手が私の手に重なった。温かな何かを感じられて、目を開けると、遠くに景色が見える。
『行くぞ。山野に着く頃には、夕方間近だろうな』
響希君がキノカサの背に乗り、私たちはこれから山野へ向かう。私の体が浮いたのが理解出来た時には、キノカサと並走していた。
「意外と乗り心地いいな。てか、何で姿身の羽織を、羽織らなきゃいけないんだ?」
『お前は、普通の人間の目に映るだろうが。一大事になりかねん』
『華鈴の体も、人間の目には写らぬからな。心配いらぬぞ』
そうなんですか。空を飛んでると、気持ち良いですね。風を感じられる。
『そうであろう。空を飛ぶのは、気持ちの良いのだ』
上空から見る景色って、普段と違う感じがします。いつも、こんな景色を見てたんですね。
『我が生きていた時代、この辺りは、田畑の広がる地だった。今では家々が不思議な形をしておるな』
『妙月。華鈴との会話が、独り言に聞こえるぞ』
『仕方あるまい。それにしても、妖たちが騒がしいな』
「玖琉様のことがあるから、だと思う」
太陽が西の空へと向かっていく。今頃、ツグノハは何処だろう。陸路で山野へ行くとなると、岡ノ原へはまだ、着いていないはず。
『華鈴。ツグノハと名乗る妖だが、般若の面を着けておらぬか?』
着けてますよ。白い、般若の面です。妙月様は、ツグノハをご存知なんですか?
『我が生きていた時代、紀伊国で出会った。とある神社で、暮らす者だったのだ』
ツグノハが玖琉様に、弟子入りを嘆願しているところを、妖念感で見ました。玖琉様は、弟子をとらない方みたいで。
『玖琉と名乗る妖は、この世の穢れを祓う妖。穢れが蓄積された場には、玖琉でも祓えぬ程の、大妖となってしまうからな』
穢れが妖に? そんなことが、あり得るんですか?
『穢れから妖に姿を変える者もいる。殺鬼や厄神が、その類いだな』
「妙月様は、封魔師ですよね。妙月様も、穢れを祓えたりするんですか?」
『響希。それを聞くのは、野暮だぞ。この妙月が、穢れを祓えるわけがないだろうが』
お昼ごはんを食べていないせいか、お腹が空いた。だけど、憑依されているからか、それを忘れられる。
『もうすぐ、岡ノ原の外れだ。まだまだ長いぞ』
『キノカサ、少し休まぬか。憑依しているせいか、腹がへる』
「俺も華鈴も、お昼ごはんを食べていない。キノカサ、降りれる場所はないか?」
『あの丘の上にでもするか。家々が無く、景色も良いだろう』




