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紅蓮荘奇譚 弐  作者: 天城なぎさ
第弐拾弐話 迷いの杜
33/95

第弐拾弐話 肆

『華鈴。覚悟は出来たか?』

「や、やるなら、一思いに!」


 妙月様を私の体に憑依させて、空を飛ぶという荒業に出た、キノカサと妙月様。

 これは、山野に行く為の交通手段がない、私たちの決断でもある。


『目を瞑り、両手を前に。動くでないぞ』


 目を瞑り、両手を前に出すと、妙月様の手が私の手に重なった。温かな何かを感じられて、目を開けると、遠くに景色が見える。


『行くぞ。山野に着く頃には、夕方間近だろうな』


 響希君がキノカサの背に乗り、私たちはこれから山野へ向かう。私の体が浮いたのが理解出来た時には、キノカサと並走していた。


「意外と乗り心地いいな。てか、何で姿身(すがたみ)の羽織を、羽織らなきゃいけないんだ?」

『お前は、普通の人間の目に映るだろうが。一大事になりかねん』

『華鈴の体も、人間の目には写らぬからな。心配いらぬぞ』


 そうなんですか。空を飛んでると、気持ち良いですね。風を感じられる。


『そうであろう。空を飛ぶのは、気持ちの良いのだ』


 上空から見る景色って、普段と違う感じがします。いつも、こんな景色を見てたんですね。


『我が生きていた時代、この辺りは、田畑の広がる地だった。今では家々が不思議な形をしておるな』

『妙月。華鈴との会話が、独り言に聞こえるぞ』

『仕方あるまい。それにしても、妖たちが騒がしいな』

「玖琉様のことがあるから、だと思う」


 太陽が西の空へと向かっていく。今頃、ツグノハは何処だろう。陸路で山野へ行くとなると、岡ノ原へはまだ、着いていないはず。


『華鈴。ツグノハと名乗る妖だが、般若の面を着けておらぬか?』


 着けてますよ。白い、般若の面です。妙月様は、ツグノハをご存知なんですか? 


『我が生きていた時代、紀伊国で出会った。とある神社で、暮らす者だったのだ』


 ツグノハが玖琉様に、弟子入りを嘆願しているところを、妖念感で見ました。玖琉様は、弟子をとらない方みたいで。


『玖琉と名乗る妖は、この世の穢れを祓う妖。穢れが蓄積された場には、玖琉でも祓えぬ程の、大妖となってしまうからな』


 穢れが妖に? そんなことが、あり得るんですか?


『穢れから妖に姿を変える者もいる。殺鬼(さっき)や厄神が、その類いだな』

「妙月様は、封魔師ですよね。妙月様も、穢れを祓えたりするんですか?」

『響希。それを聞くのは、野暮だぞ。この妙月が、穢れを祓えるわけがないだろうが』


 お昼ごはんを食べていないせいか、お腹が空いた。だけど、憑依されているからか、それを忘れられる。


『もうすぐ、岡ノ原の外れだ。まだまだ長いぞ』

『キノカサ、少し休まぬか。憑依しているせいか、腹がへる』

「俺も華鈴も、お昼ごはんを食べていない。キノカサ、降りれる場所はないか?」

『あの丘の上にでもするか。家々が無く、景色も良いだろう』

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