第拾捌話 参
シキたちの手伝いをしようと外に出てみると、黒い雲が空を覆い、雨が降りだしていた。
「どうしよ。私、傘持ってきてない」
「僕の折り畳み傘使う? 僕、今日は紅蓮荘に泊まる予定だから、使って」
「いいの? ありがとう。僚君」
「いいよ~。もうすぐ新学期なんだし、風邪引かせたくないからね」
そんな会話をしていると、私たちに気づいた響希君がこちらへ。
雨が少し強まっているようだけれど、響希君は気にしていない。
「依頼主はとっくに帰ったんだよな?」
「あー、響希君。お疲れ様」
「あぁ。お疲れ。華鈴」
「花畑は完成したの? 響希」
「僚も華鈴も、依頼主が帰ったら来ると思って、待っていたら雨が振りだして……。完成目前だったんだけどな!」
「もしかして、怒ってる? 響希?」
まさか。と言ってくれるような、空気ではないわけで。響希君がイライラしているのが、目に見えて分かる。
「怒っているわけないだろ? すぐに来ると思って、待っていたけどな! 何度でも言ってやろうか?!」
「ごめんね。響希君」
「悪気があったわけじゃないんだよ。ね、響希。落ち着こうか」
「そうだよ、響希君。落ち着いて。雨降ってるし、中入ろう。あ、お饅頭あるよ。お茶にしよう」
恐らく、響希君の機嫌は良くならないだろう。そんなことは、私たちは承知しているけれど、怒られる前に、穏便に済ませたい。
「ちなみに、何処の饅頭?」
「いつもの、水仙堂だよ。この辺で和菓子屋さんは、そこくらいでしょ?」
「りんちゃんが買ってきてくれたのに、文句言わないの。響希」
「言ってないだろ。何処の饅頭か聞いただけだ」
「お茶淹れるから、水の間で待ってて」
ホラホラと、背中を僚君に押されながら、中へ入っていく響希君を見送り、私は小さな台所へ。すると、雨に濡れたシキが、外からやって来た。
『華鈴。依頼主は帰られましたか?』
「うん。帰ったよ。ごめんね、シキ。手伝いに行けなくて」
『構いませんよ。響希が手伝ってくれましたし。それより、依頼主は、足早に帰られましたね』
「そうだね。実は、依頼はないの。依頼主自身で人を探すって。見つからなかったら、また来るって言ってたよ」
『それはそれは。ハハハ』
「でも、私たちはちょっと気になるから、独自に調べてみるね。僚君が、知ってる妖みたいだから」
『そうですか。分かりました。危険には気をつけて』
「ありがとう。お茶淹れるけど、シキもどう? 響希君と僚君が、水の間で待ってるよ」
お茶うけのお饅頭はいつも多めに買ってくる。シキやキノカサ、妙月様と一緒にお茶をするから。
ちょっと変わったティータイムだけど、心地良い時間。