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紅蓮荘奇譚 弐  作者: 天城なぎさ
第弐拾壱話 鬼(き)になる妖
27/95

第弐拾壱話 伍

 紅蓮荘の扉を開け、中に入ると、見知らぬ和服男性が、笹団子を手に、外に出ようとしていた。

 シキとは違う、灰色の着物で、ショートカットのグレーの髪。誰だろう。


『華鈴か。笹団子食うか?』

「この声。もしかしてヒサギ!?」

『そんなに驚くことか? シキだって人間の姿になれるんだ。俺様だってなれるに決まってる』

「そうだけど。いきなり人間になられると、驚くよ」

『響希が、水の間で待っている。ほら、これでも食いながら、水の間で過ごせ』


 私の分にと、結ばれている中から一つ取ってくれた。白牙も欲しがっていて、ヒサギに催促している始末。


『ヒサギ、ボクも食べたい!』

『ほらよ。味は、森中の妖たちのお墨付きだからな』


 私たちの横を通り過ぎ、外へ出たヒサギ。あっという間に妖たちに囲まれ、一躍時の人。いや、時の妖。


 私たちは水の間に向かい、響希君に様子を伺う。キノカサの姿がなく、近くにいないのか、妖気も感じない。


「おはよう。響希君。あれから、橘先生の様子は?」

「特に変わったことはない。キノカサも昨晩からいない」

(つかさ)君は、今日は来れないの?」

「父親が帰ってきているからな。今日は無理だろ」

『響希は、この笹団子食べた?』

「いや。まだ食べてない。黒牙(こくが)は食べたけどな」

『美味しいらしいよ。華鈴、そろそろ降ろして。人間の姿に替わるから』


 床に降ろすと、白牙を白い煙が包み込み、すぐに白いパーカーの男の子が現れた。器用に笹を剥いていく。


『いっただきっまーす!』

「白牙、お茶がそこにあるからな」

『ふぇ? あ、これ? 僕飲んでいいの?』

「ああ。ぬるくなったかも、しれないけどな」

『大丈夫。まだ温かい』


 美味しそうに、笹団子を食べている白牙。響希君と私は、橘先生の意識が戻ることを願うばかり。

 昨夜の般若のことは、シキやキノカサ、妙月様がいるところで、話したい。


「華鈴? どうした?」

「えっ? 何が?」

「ボーッとしてたぞ?」

「あー、うん。ちょっと、寝不足なの」

『ボクたち、昨晩、般若を見たんだ。シキに話そうってことで、ここに来た。気になりすぎて、華鈴は眠れてないんだよ』

「般若? そうなのか? 華鈴」

「うん。それから、丑三つ時くらいに、玖琉様っていう妖を、探す声が聞こえたの」


 響希君に、昨晩の出来事を、出来るだけ分かりやすく、簡潔に話す。般若のこと、不思議な声のこと。そして、玖琉様。


「それで、その般若が、玖琉様って妖を、探している可能性があるのか」

「まだ分からないけど。ただ、タイミングがよすぎる気がして」

『玖琉様がいなくなったなら、一大事なんだよ。シキに伝えなきゃ、妖だけじゃなく、人間にも影響が出ちゃう』

「シキは今朝早くに、何処かに出掛けた。帰ってくるのは、夕方くらいか」

「どうしよう。まだ、近くにいるかもしれないし」


 シキに伝えなきゃいけないのに、いないなんて。

 私たちが話している間も、眠ったままの橘先生。早く目を覚まして欲しい。


 思うことがありすぎて、私は混沌の中にいるよう。

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